第11章 気掛かり
「くっつく?誰が何に?何言ってるんですか、デイダラ。あなたの言う通りなら何で今ここにあの馬鹿がいないんです?大体私とあの人は知り合ってこの方正味七日も一緒に居た事がない。言いたくもありませんがね、だったらあなたたちとの方が余程くっついてますよ、私は。ああ、言いたくもない。気の悪い。兎に角、牡蠣殻さんはそんな殊勝なモンじゃありません。人の話を腰低く受け流して結局自分のしたいようにする自己中心的な女です。一見真面目で大人しそうですが実際は鼻持ちならない厄介者で、誰かに諾々と寄り添うようなしおらしさは持ち合わせてません。ただただ勝手に出来てるんです、アレは」
「はあ…」
香木の移り香がする手で頭を掻いてデイダラは首を傾げた。鬼鮫も思うようにならない牡蠣殻に鬱屈しているらしい。難儀な事だ。付き合う相手は選ばねば気苦労が絶えない。気を付けなければならないとデイダラは胸に刻んだ。
俺は変な女にゃひっかからねえぞ。いや、ひっかからねえ。ひっかかってねえ。杏可也のこたァまた別の話であって、えー、兎に角俺は女には気を付ける。うん。
「…何考えてるんです」
ふと鬼鮫に突っ込まれて、馬鹿に真面目に考え込んでいたのに気付いた。頭を振って、振った拍子に何故かぽろりと藻裾の事を思い出す。
「うぅわ、冗談じゃねえぞ!何でテメェが出て来んだ!?」
思わず大きな声を出したらば、鬼鮫が物凄い呆れ顔をした。
「何なんです。いよいよネジが弛みましたか?…と言うか、あなたにも弛むネジがあったんですねぇ。落とすと次がないから泣けなしのネジはキチンと締め直した方がいいですよ」
「うるせえ。オイラを旦那と一緒にすんな。ネジなんかねえぞ、傀儡じゃねんだから」
「……ああ、そうですか。成る程、真っ直ぐな解釈ですね。行間も空気も吹き飛ぶ真っ直ぐさです。わかりました。あなたにネジは要りません。早々に全部外して捨ててしまいなさい。半端は生理的に受け付けないんですよ、私は。キチンと締まらないネジをぶら下げているより後生よく壊れなさい」
「何でオイラがオメェの生理的な問題に合わせて壊れなきゃねんだよ、このバカ」
「壊れていようが壊れていまいが大差ないあなたの事なんかは全くどうでもいいんですがね、中途半端は受け付けないんですよねえ。イライラする」