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連れ立って歩く 其の四 和合編 ー干柿鬼鮫ー

第17章 逃げるのではなく。



体を起こした波平から、チリ、と、音が鳴った。

鬼鮫と波平、互いの目が合う。

「サソリさんから」

トンビの隠しに手を滑り込ませて、波平がフと笑った。

「預かりました。どちらが受け取るかは判らないけれど、兎に角返しておけと」

引き出された波平の指先、薄明かりの中で鈍色の鎖と武骨な指輪がひっそりと光る。

「どちらにお渡ししましょうか」

「私が受け取りますよ」

間髪おかず、鬼鮫は腕を伸ばした。波平が差し出した雪中花を掌に納めて白い息を吐く。

「あなたも難儀な人だ」

鬼鮫を眺めて波平がトンビの懐に手を潜らせた。

「面倒をおかけした事でしょう。礼を言います」

「あなたに礼を言われる筋合いはありません」

素っ気なく返した鬼鮫に波平は顔を綻ばせる。

「だとしても言わせて頂きたいのです。お陰で牡蠣殻は生きて磯に戻った。あなたのお陰と言っていい」

「あの人は存外しぶとい。籠に閉じ込めるまでもなく生半な事じゃ死にはしませんよ」

口角を上げて波平を見返し、鬼鮫は雪中花を懐に仕舞い込んだ。
波平は黙って鬼鮫に頭を下げると、トンビの裾を捌いた。涼風が湧く。これが波平の失せ風なのだろう。皆まで見届けず、鬼鮫は波平に背を向けた。

「干柿さん」

巻き上がる枯れ葉の乾いた音に混じって、卑下でも皮肉でもない波平の声がその背中を追う。

「…何より磯辺を返してくれた事に感謝します。私にはあれが必要なのです。あれが磯に戻った以上、今度こそ離す事はしません」

「それはあなたが決める事じゃありませんよ」

振り返りもせずに、鬼鮫は前へ足を運ぶ。



私が、そしてあの人が決める事です。



風が巻いて、また山鳥が飛び立った。

鬼鮫は獣道に踏み込んで独り、山を下りた。



















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