第11章 気掛かり
デイダラはにやりと笑い返して窓の表を眺めた。
「そんなのァ罪人に限んねえだろう。欲が深えヤツァ何処にでもいるもんだ。何も追っかけまわされる犯罪者に限ったこっちゃねえよな、うん」
罪が欲を生むのではない。欲が罪を生む。
そしてそれは必ずしもではない。欲が生むのは醜いものばかりではないのだ。
今のデイダラにも欲がある。杏可也と出会ってから胸に温めてきた欲だ。この欲は醜い欲ではない。だからデイダラは杏可也に何も求めない。
「俺は欲張るヤツァ嫌いじゃねえよ。正直でいいじゃねえか」
言ったら世の中なんか欲で出来てるようなもんだ。鬼鮫が牡蠣殻を追いかけるのも欲の為せる業だし、今サソリを探し出そうとしているのもそれに付随する欲だ。牡蠣殻に会いたいという、単純な欲。
「旦那は玩具を拾ったんだろうと思うよ」
最近めっきり口数の減ったサソリを思い起こしてデイダラは口の端を下げた。
何かに没頭するとサソリは常に増して周囲に構わなくなる。
「まあオメエの考えた通りだろうな。オメエ旦那を怪しんでんだろ。なら間違いねえや。牡蠣殻なんてのはここじゃオメエ以外誰も興味ねえしよ。アイツの気配や尻尾が出れば、一番よくわかんのはオメエだもん」
「……」
「んな顔すんなって別にからかっちゃねえよ。俺が知ってる旦那の隠れ家は一箇所だけ。以前いい粘土の採れる山里があったとこだ。今は綺麗さっぱり無くなっちまってるが、そこん跡に家を構えてる。今ァもう粘土なんか採れねえから俺ァ足を向けねえが、場所なら覚えてるよ。何せ俺と旦那で消した里の事だから…」
「…あなたたちも大概ロクな事をしてませんねえ…」
「うるせえな。人の事言えんのかよ」
うるさそうに手を振るデイダラに、鬼鮫はしばし口を噤んだ後静かに言った。
「浮輪杏可也には気を付けなさい。見た通りの女性じゃありませんよ、彼女は」
余計な世話だ。
にやりと笑ってデイダラは 鬼鮫を睨み付けた。
「見た通りのヤツなんているのかよ」
言ってから、デイダラはマジマジと鬼鮫を見、気まずそうに顔を背けた。
「…ああ、いるな、うん。いたわ、うん」
「ええ、いますとも。殊にあなたや私の周りを見れば枚挙に暇がない」
「牡蠣殻の気が知れねぇな。よくオメェなんかにくっついてるわ」