第11章 気掛かり
「オメェの受け付けなんか知るか。どうせ牡蠣殻みてぇな可愛くもねえ変なヤツがおっ座って客を追い返すような受け付けなんだろ?潰れっぞ、そんなんじゃ。何の会社だか知らねえけど絶対潰れんな。オメェは前ッから思ってたけど言う事なす事皆爺臭え。ジャスト爺。全てが爺」
「ほう。えらく腹の立つ事言いますね」
「そうか?まあ気にすんな。今場所教えてやるからよ、したらサッサと出てきやがれ、な?うん」
してやったりの笑顔を浮かべたデイダラに鬼鮫は人の悪い表情を浮かべた。
「そう言えば汐田藻裾。彼女、最近どうしてます」
ギクとしかけてデイダラは危うく平静を装う。少なくとも装った気になる。
「知らねえよ」
「行方知れずですか」
聞いた鬼鮫が薄く笑う。
「磯人らしい事ですね」
「まあそうだな」
知っててもわざわざ教えやしねえよ。
草の騒ぎの直後から、デイダラは伝書鳩の雪渡りを通じて藻裾とやり取りしている。
今藻裾は、どういう訳かサスケとかいう木の葉から抜けた小坊主が気になって仕方ないらしい。好き嫌いではない。彼の去来を気にしている。
兄であるイタチを殺す事を念願にしている、年若く才気ある抜け忍のサスケの去来を。
誰にも話していない。話すことでもない。話そうとも思わない。
イタチは暁の一員だ。だからと言って庇うものではないし、実際彼は誰に庇われる必要も守られる必要もない。藻裾がサスケに近くあるからといってそれがイタチを脅かす事もないだろう。
多分藻裾は、初めて同じ気持ちを見たのだ。信じていた相手を仇と思い定め、許せないと、許すことが出来ないと懊悩する気持ちを抱えるサスケを、海士仁に殺意を持つ自分と重ねて何かを考え込んでいる。世間知らずの磯の娘が初めて会った仇持ち。サスケと藻裾の思いは比べるべくもないが、そもそも人の思いの重さは比べられるものではない。
デイダラは滅多に返事を出さない。藻裾の便りをただ読むだけだ。他愛も無い内容が多い。楽しそうに過ごしているようにも思われる。
けれど。
藻裾にも闇はある。日の当たらないところで育って来た気持ちを、今藻裾は見直している。海士仁への藻裾の思い、牡蠣殻への藻裾の思い、深水、そして阿可也への思い。
あの性格だから開けっ広げにしてきたのだろうし、開けっ広げにしてきたからこそ、蟠ったものに気付く事がなかったのかも知れない。