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連れ立って歩く 其の四 和合編 ー干柿鬼鮫ー

第11章 気掛かり


「あの女を抱いたなら、さぞ悦かったろうと言ってるんですよ」

鬼鮫は体を起こして腕組みを解いた。
デイダラが目を眇める。

「据え膳に手を付ける暇がなかったのが残念ですよ」

「…どういう事だよ」

低い声で問うデイダラに、鬼鮫は片口の端を吊り上げた。

「据え膳の意味くらい知らないでもないでしょう?」

「やり返した気かよ」

「やり返す?まさか。そのままですよ。浮輪杏可也は嫋やかに見せてなかなかの女性ですね。食指は動きましたが後が面倒そうなので遠慮しました。惜しい事をしましたかね」

「杏可也がオメェなんざ誘うか」

「本当にそう思いますか」

目を見て言えば、デイダラはふいっと背中を向けた。再び固い動きで白檀を削り始める。

「…馬鹿らしい…。俺にゃ関係ねえよ」

「ならそんな木片は不用でしょう。無闇に削らず売り払ったらいい。木っ端でさえ金になるものですよ。好事家に塊で売り付ければ金欠も吹き飛ぶ」

「人の懐具合なんざ気にしてんじゃねえや。金欠はオメェも一緒だろうがよ」

「私は金の使い途がありませんでね。少々の出費で金欠になぞなりませんよ」

「それ、角都にゃ黙っとけよ?色々メンドくさくなんぞ、うん」

「予想外に冷静ですねえ。詰まらない」

ふっと鼻を鳴らして笑った鬼鮫に、デイダラは背を向けたまま頭を振った。

「言ったろ。俺にゃ関係ねんだよ。うん」

「さあ、そうでしょうかね」

「いい加減ぶっ殺すぞ。死にたいのか、うん?」

椅子を引いてデイダラが立ち上がった。膝に落ちた木っ端が散って、白檀の芳香が強くなる。

「殺す?あなたが私を?」

鬼鮫はまた腕を組んでデイダラを見下ろした。

「ほう。あなたにそんな事が出来ますかねえ…」

一瞬、渦を巻いたようなデイダラの目がギリと殺気を帯びた。が、それも束の間、デイダラは肩の力を脱いて鬼鮫から目を反らす。

「ほっとけって言ってんだよ。俺は今オメェと戯れるような気分じゃねんだ。とっとと出かけちまえ」

「勿論行きますよ。用が済んだらすぐにでも」

デイダラが皮肉げな表情を浮かべた。

「旦那に用ってのは牡蠣殻絡みか」

「だったら何です」

目を細めた鬼鮫に、デイダラはヘッと吐き捨てて口角を上げた。

「逃げ回る女の尻を追っ掛け回すなんざそれこそ無駄じゃねえかよ。何時まで馬鹿やってんだ。情けねえな、鬼鮫」
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