第11章 気掛かり
「そういやぁ見かけねえな。何処行った、アイツ?」
イタチのお茶を勝手に呑み干して、飛段が首を傾げる。鬼鮫は呆れ顔をした。
「聞いてるのは私なんですがね」
「何が気になんだよ?」
「あなたたちには関係ありませんよ」
「あー、まぁそりゃそうだ」
あっさり頷いて頭の後ろで手を組んだ飛段だったが、すぐ身を起こして鬼鮫を見る。
「で、お人形ちゃんに何の用な訳よ?」
「人の話を聞かない人には何を話しても無駄だと思うんですがねぇ。聞いたってすぐ忘れるんでしょう?」
皮肉げに言った鬼鮫へ飛段はにやっと笑って見せた。
「馬鹿言うな。面白ぇ話なら忘れねえよ。詰まんねえ話だったら覚えてる意味ねえし」
「成る程」
「だからオメェが面白え話をすんなら、俺も物忘れしねえですむってんだ。ん?面白え事なら一枚噛ませろよ」
「詰まらない事ですよ」
鬼鮫が切り捨てた話を、デイダラが拾った。
「最近何か臭えよな、旦那。俺も気になってたんだ。うん」
場に居た全員の目がデイダラと鬼鮫に注がれた。
鬼鮫は器用に片眉を上げて周りを無視し、デイダラを見る。
「臭い?」
「臭えだろ?」
「それはどういう意味です」
「?臭えったら臭えって事だろが。うん。何言ってんだ、オメェは」
「どういう意味で臭いのかと聞いているんですよ」
「どういう意味って。……まさかオメェ、臭いって知らないの?え?鬼鮫、臭いって知らねえのか!?臭いの意味を知らない!?何しに日本に来たかわかんねえユーでも臭いくらい知ってるぞ、六割方くらいは!俺調べの予想だけれども!臭いを知らない!?臭いを知らないデスか!オメェが!?飛段じゃなくて!?」
「おい、何でそこに俺が出て来んだよ、臭えくれぇ知ってら。ざけんなよゴラ」
「だよな、飛段だって臭いの意味くらい知ってるよな!大丈夫か、鬼鮫!?一時間十両で日本語教室やってやるぞ、オイラにかかりゃ十年くらいで日本語の基礎知識はバッチリだ。どうだ、うん?」
「…あなた今まで私と何語で話して来たつもりでいるんです?十年かけて日本語の基礎知識を学ばなければならない相手と、あなた何語で話して来たんです?」
「一時間十両はふっかけ過ぎだ。よくせき金欠なのだな、デイダラ」
帳簿を閉じて角都が手を組んだ。
「…俺なら一時間八両でいい。三年で基礎を築いてやろう。どうだ、鬼鮫」