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連れ立って歩く 其の四 和合編 ー干柿鬼鮫ー

第10章 歩み寄りがなければ相性も悪い。



「馬鹿が。俺ァツンデレじゃねぇ。ヤンデレだ」

「ほう、成る程…。言われてみれば非常に納得です。わかりました。で、そのいい歳してヤンデレなんて自己申告する様なヤンチャな貴方が、どっかのしょうもない偏屈中年男の勘違いで魚屋呼ばわりされっ放しの私に何の用です?干柿さんと連んでいない私は魚屋としちゃ開店休業状態ですよ。何せ売り物がありませんからね」

「誰があんな馬鹿でけェ鮫なんか買うか。大体俺ァ魚は嫌いだ」

「はは。好きも嫌いも貴方の好みなんか知ったこっちゃありませんが、そもそもサソリさん、貴方呑み食い自体出来ないんじゃ…」

「いちいちうるせえな。黙れ馬鹿」

サソリに苛立たしげに遮られて牡蠣殻は黙り込んだ。暫し湯呑みを見下ろしてから、視線を上げる。

「呑めばいいんですね?」

不意に素直に言われてサソリは眉をひそめた。それを見返す牡蠣殻の顔に古拙の微笑がある。サソリは口角を上げて笑い返した。
 
何企んでやがる?上等だ。

「呑めよ」

「わかりました。そうすればきっとあなたが何をしたがっているのかわかるのでしょうね」

「さぁな。そら俺の気分次第だ。だがまぁ呑まねぇよりゃ知れる率は上がるだろうよ」

「でしょうね」

牡蠣殻は呆気なく湯呑みに口を付け、中を干した。
妙な顔をして湯呑みを見遣り、口元を拭って軽く咳き込む。

「…生薬の他はどうも口に合わない…」

「薬に違いはありゃしねえ」

「そうは思いませんがねぇ…」

気色悪そうに舌を拭う牡蠣殻にサソリは呆れ顔をした。

「生薬にゃねえ即効性や専門性が育薬にゃある。先々弄りようで効果も上がる。較べて生薬の効用が変わるこたァ滅多にありゃしねえ。そう考えりゃどっちが良い?」

「新薬や育薬の即効性や専門性は一見優れているように思えますが、強い効用は副作用や中毒性を生み易い。生薬にもそうした作用のあるものは少なくありませんが、それでも科学的に精製されたものより人の体の有り様に添った穏やかな効き目がのぞめます。人は病を克服するに当たり先ず長期的に体質を改める事をすべきだと思いますがね。その為には生薬を服用した方が好ましい」

「酒も煙草もやるヤツがどの口で吐かしやがる」
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