第10章 歩み寄りがなければ相性も悪い。
「それはまた別の話でしょう。どうした生き死にをするかは当人の自由です。それすら許されない生を能動的に享受するのは苦痛でしょうね。籠の鳥というのは惨めなものです」
鳩尾を押さえた牡蠣殻の手の下から、チャリと金属音がした。牡蠣殻の顔が和やかに弛む。目覚めてサソリを見止めて以来、基本ずっと陰鬱だった表情が心なし明るくなったように見える。
そこに牡蠣殻の支えか救いがあるように思えた。
牡蠣殻の事などまるっきりどうでもいいが。
サソリは、身じろぎ一つせず牡蠣殻を眺めた。
弱みとして後々使えるかも知れない。
大体救いようもなけりゃ支えがいもなさそうなバ牡蠣殻にゃ救いも支えも要らねえだろ。あってねえようなモンだ。馬鹿に付ける薬はねぇからな。
「生き汚ぇヤツは嫌いだ」
サソリは無表情に言い放って鼻を鳴らした。
「かと言って潔すぎるヤツァ胡散臭ぇ。まぁどっちにしろどうだっていい事だがよ。他人の生き死にが何だってんだ。俺にゃ拘りのねぇ話だ」
「面白いくらい正直ですねえ」
サソリの言い様に牡蠣殻は朗らかに笑ってまた口を拭った。
「話し方ひとつで印象が変わるなんて些事は貴方たち暁の人には関わりないんでしょうね」
「下らねえ」
牡蠣殻の様子を正面から無遠慮に見ながら、サソリはこめかみをピクリとさせた。
虚血の薬に加えて即効性の眠薬を呑ませたのに、何故コイツは常態でいるのか。
牡蠣殻が笑った。読めない柳の目。
「どうしました?」
効かねえってか?何でだ。しかもコイツ、それを知ってやがるな。だからあっさり呑みやがったんだ。
「いや」
…ふん?面白え。
毒ってだけじゃなさそうだ。
コイツの血、どこまでのものなのか。馬鹿に効く薬はねえって事かよ。
……気持ち悪ィな。ゾンビパンダァ思い出しちまったじゃねえか。…くそムカつく…。