第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
らしくない言葉を吐いたミホークが可笑しかったのか、ゾロはプッと噴き出した。
「おれは最初から分かってたよ。お前はクレイオへの愛情を隠しきれてなかったからな」
この包帯だらけの身体が、その証。
「おれがアイツを抱くと言った時、そしてアイツを殺すと言った時・・・あんたはおれを殺そうとした」
───なのに、こうして今も生きていることが、何よりの証。
「お前、おれに自分自身を重ねてただろ」
“鷹の目”ほどの男が本気で誰かを殺そうとしたら、その人間は一呼吸の猶予も与えられずに殺される。
死に至らなくても、二度と剣が握れなくなるだろう。
でも、ゾロはこうして生きているし、剣を握ることもできる。
「クレイオが特別なのは、おれもお前も同じ。“自分自身”を殺すことはできねェもんな」
確かに、クレイオに邪魔されても、彼女を傷つけないようにしながらゾロを殺すことはできた。
「おれ自身を貴様に重ねていた、か・・・そうかもしれんな」
“クレイオは、おれがもらう”
“おれは、クレイオの命を預かっている”
「娘を抱くと言ったお前の目を見て、おれも同じ目をクレイオ・・・あれの母親に向けていたのかと思ったら・・・お前を殺したいという欲求と、自分を殺したいという欲求が同時に生まれた」
“クレイオ”を穢すことは許さない。
だが、“クレイオ”を穢した自分にゾロを責める資格はない。
「その欲にまみれた眼差しが娘を不幸にするくらいなら、おれの手で殺してやろうと思ったのだが・・・そもそも、おれにクレイオの幸せを願う資格はない」
母親を見殺しにした父親なんぞに、クレイオだって幸せを願って欲しくはないだろう。
「ったく、どこまでも面倒くせぇ親父だな。人の幸せを願うのに、資格もクソもねェだろ」
ゾロは盛大に溜息を吐きながら、後ろ頭をガリガリと掻いた。
「誰かに幸せになって欲しいと思ったら、ただその気持ちを大事にしてりゃいいんだよ」
それは、夢を持つことと同じ。
仲間の夢を笑う奴がいたらそうするように、お前の娘の幸せを願う気持ちを笑う奴がいたら、おれがぶった斬る。