第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
ゾロは窓の外を見つめ、目を細めた。
きっと今頃、クレイオはシャンクスの船の上だろう。
“私は母が生まれた島に帰ろうと思う”
昨晩、彼女の決意を聞いた時、ゾロはようやく本当のクレイオの姿を見たような気がした。
「あいつはずっと、母親の影を追いかけていた」
聖女のようだった母のように、優しく慈愛に満ちた人間でありたいと願っていた。
「同時に、父親の影に怯えていた」
けれど、怒りや憎しみで我を忘れた時、衝動的に人間の命を奪ってしまう。
そんな自分に酷く怯えていた。
「だがあいつはもう、母親の影にも、父親の影にも囚われていない」
クレイオは一人の人間として、剣を持つ“聖母”となるために歩み始めた。
母親から譲り受けた信仰心と、父親から譲り受けた剣の才能の両方を持って。
「あいつの母親のことは話でしか聞いてねェから、偉そうなことを言うつもりはねェが・・・」
ゾロはミホークの方に顔を向けると、クレイオと同じ“鷹の目”を見て微笑んだ。
「あいつは紛れもなく、あんたが惚れた女の娘だよ」
それは、ミホークがずっと求めていた言葉だった。
不思議なものだ・・・
イーストブルーで初めて会った時は、鼻息の荒い小僧ぐらいにしか思わなかったのに。
“麦わら海賊団”が離散し、シッケアール王国まで飛ばされてきた時も、覇気すら扱えない弱い剣士だと思っていたのに。
「これで二度目だな。お前に気づかされるのは・・・」
一度目は、ゾロが真剣勝負を挑んできた時。
それを止めようとしたクレイオを見て、彼女が愛する人の娘だということを実感した。
そして今、初めて他人が、クレイオは愛する人の娘だと認めてくれた。
「もう疑いようがない・・・あれはこの世界でたった一人、クレイオの血と心を受け継いだ娘だ・・・」
口に出してしまえば、10秒もかからない短い事実。
ようやく言葉にすることができたその瞬間、長年の想いが心の底から込み上げてきた。
「礼を言う、ロロノア・ゾロ」
クレイオという女への愛情と、
クレイオという娘への愛情。
もう二度と、封印することも、背を向けることも、否定することもしない。
ロロノア、貴様のおかげで二つの愛情を同時に抱けるようになれた。