第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「ロロノア、お前はクレイオの過去を知っているのだろう」
「ああ、まぁな」
「では、あの娘が人を殺したことも知っているな?」
頷いたゾロに、ミホークの眉間にシワが寄る。
自分が愛した女性は、人を殺すぐらいなら自ら死を選ぶような女だった。
そのような人が産んだ子どもだからこそ、暴力とは無縁な人生を歩んで欲しかった。
神父に娘を託したのは、あの男ならクレイオを聖女として育ててくれると思ったからだ。
母親が望んだ生き方に、娘を導いてくれるかもしれない。
少なくとも、自分よりはその可能性が高い。
“好きな方を選べ。今ここで殺されるか、この娘が無事に成人したあとで殺されるか”
あの神父がクレイオの母親に好意を持っていたのは、何となく彼女の話から分かっていた。
だから娘を見捨てることはないと確信していたし、死を突き付ければ騒ぎが完全に鎮まった頃に、クレイオを連れてあの島から逃げ出すと思っていた。
だが、その前に殺されてしまったことが誤算だった。
「人とは思い通りにならんものだな」
どうして願ったように生きてくれなかった。
ただ・・・
ただ、平和に生きてくれるだけで良かったのに。
ミホークが顔を伏せると、ゾロはそんな師匠に向かって柔らかく微笑んだ。
「思い通りにならねェから、おれもお前も海賊やってんだろ」
身体の至る所にある傷痕を触りながら、白い歯を見せる若い海賊。
「お袋がおれを産み落とした時は、まさか自分のガキが海賊船に乗るなんて夢にも思わなかっただろうな」
でも、少年は“世界一の剣豪になる”という夢を抱いてしまった。
そして海に出て、一人の海賊と出会ってしまった。
「おれは自分の夢のために海賊をやっている。世間から見りゃ、そんなおれはただの犯罪者だ」
ミホーク、お前もそうだろ?
お前も海で“何か”を求めているから、ドクロを掲げているんだよな。
「そんな海賊の血を引く女が、誰かの思い通りに生きるわけがねェだろ」
そうでなかったら、今もクレイオはゾロの腕の中にいたはずだ。
そして・・・
そうでないから、ゾロは彼女の生き方を守ってやりたいと思う。