第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
翌朝。
ゾロが目覚めると、一緒に寝ていたはずのクレイオの姿はもうそこになかった。
だがそれは予想していたことなのだろう。
ゾロは大あくびをしながら起き上がると、鉛のように固くなった肩をグルグルと回した。
「クソ・・・まだかなり痛ェな・・・」
大抵の怪我は二日もあれば回復するのに、流石は世界一の剣豪による刀傷といったところか。
いつもより指の動きが悪いが、それでも刀を持つことはできるし、素振りも問題なさそうだ。
ゾロはテーブルの上に置いてある朝食に目をやってから、窓からいつもと変わらぬ曇り空を見上げた。
「・・・・・・・・・・・・」
湿気の中に漂う、微かな気配。
ゾロが視線をドアへ向けたと同時に、それは音もなく開く。
「目覚めたか、ロロノア」
入ってきたのは、ゾロを瀕死の状態にした張本人だった。
ゆったりとしながらも、隙が一切ないその歩調に、ゾロの顔に笑みが浮かぶ。
「よう、ミホーク」
「まだ安静にしていた方が身のためだぞ」
思えば、ミホークがゾロの部屋を訪ねるのは初めてのことかもしれない。
つかつかと窓のところまで歩み寄ると、ガラスの向こうを親指で指した。
「今しがた、クレイオが出立した」
それは、“すぐ追いかければ間に合うぞ”という意味だろうか。
しかしゾロは肩をすくめただけで、そこから動こうとしなかった。
「分かるよ。あれだけ強く感じていたシャンクスの覇気が、もうこの城の中にはねェからな」
「赤髪に会っておかなくて良かったのか。お前の船長と奴は顔見知りなのだろう」
「ああ。だから、ルフィよりも先におれ一人でシャンクスの顔を拝むわけにはいかねェ」
「・・・そうか」
ミホークは冷たい“鷹の目”を僅かに揺らすと、微かに口から息を漏らす。
それはまるで小さく笑ったようにも見えた。
「やはりお前達は面白いな。シャンクスが気に入るのも頷ける」
クレイオが去ったことを伝えるために、ここへ来ただけだったのだろう。
用は済んだとばかりに部屋を出て行こうとしたミホークだったが、テーブルの上の粥が目に入った途端、その足を止めた。