第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
思えばこの島に来た日からずっと、クレイオにはいつもどこか迷いがあったように思う。
それはきっと、母親が殺された日・・・いや、その前からかもしれない。
自分が生まれたことの意味。
自分が歩むべき道。
神への信仰心がありながら、感情が昂ぶると我を忘れて振るう暴力。
迷い、悩み、それらから逃れるように、聖母へ祈りを捧げていた。
「分かった、約束してやる」
あと1年。
おれはこの島で修行して、必ずルフィを海賊王にする。
「お前が守る教会の上に掲げるのは、おれ達のドクロだけだ」
ジュラキュール・ミホークの娘、クレイオ。
おれはお前に誓おう。
「“麦わらの海賊団”のドクロを、世界で一番脅威を与えるシンボルにしてやる」
そう言って笑うゾロは、まさに悪人顔。
だがクレイオはそれを歓迎するように引き寄せ、唇を近づけた。
「それまでに私は“聖母”になってみせる」
子ども達に愛を教える聖母は、右手に剣を持ち、その頭上は海賊旗に守られている。
そんな“茨の道”を選ぶクレイオにキスをする海賊もまた、常に死と隣り合わせの航路しか待っていない。
それでも二人は信じて疑わなかった。
自分達が歩む道は必ず、この先で交差していると───
「残念だな」
「・・・何が?」
「身体がこんな状態じゃなかったら、最後にもう一回、お前を抱いたんだが」
「・・・・・・・・・・・・」
さすがに全身に力が入らないし、痛み以外の感覚がないからそれどころではないだろう。
「最後までそれ?」
「ああ、おれがお前を目の前にして考えるのは、ヤリてェってことだけだ」
「最低な男」
「おれは海賊だ、当たり前だろ」
偉そうに開き直るゾロに、クレイオは自らキスをした。
「最低な男・・・だから、愛してる」
悪魔と恋に堕ちた聖女。
ミホーク達のあとを辿るように、時代は繰り返されるのかもしれない。
「おい、おれに構わず体重を乗せろ」
ゾロはクレイオを胸に抱くと、そのまま横になった。
そして温かい体温を感じながら、ゆっくりと目を閉じる。
「・・・愛してる、クレイオ」
夜明けまでの数時間。
寄り添いながら眠る二人はまるで、互いを支え合うコンパニオンプランツのようだった。