第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「なんでミホークに勝負なんて挑んだの?」
「なんでって・・・」
ゾロはクレイオの腰を掴むと、互いの顔がしっかり見えるように少しだけ離れた場所に座らせた。
そして自分も背筋を伸ばし、胡坐をかく。
「まぁ・・・ルフィの言葉を借りるなら、“ぶっ飛ばしたかった”ってヤツだな」
「はぁ・・・?」
「そうしねェとお前、ミホークにおれと同じことをしていただろ」
確信に満ちた顔で言われ、クレイオの心臓が鳴る。
確かにあの時、ミホークは母を不幸に陥れただけだったと勘違いして、彼に剣を向けようとした。
でもそれは復讐のためではなく、自分の力だけでは抑えきれない怒りと悲しみで誰かを殺してしまうくらいなら、父の手でそれを止めてもらおうと思っただけだ。
「けれどゾロには関係のないことでしょ」
「もう忘れたのか。お前が誰かを殺すなら、その前におれがお前を殺すと言っただろ」
お前は人を殺す覚悟を決められない中途半端な剣士だからな、と言って微笑むゾロ。
「殺す対象がお前自身だったとしても、その約束は有効なんだよ」
その眼差しはとても強くて、目を逸らすことができない。
本当に・・・なんという剣士なのだろうか。
「けどな、お前が死んだらペローナが悲しむ」
ゾロの手の平がクレイオの頬に触れる。
「お前が死んだら、ミホークはおれを殺すだろ」
ゾロの指がクレイオの唇に触れる。
ペローナにとってクレイオは数少ない友達。
ミホークにとってクレイオはたった一人の娘だから。
「そうならねェよう、先に手を打とうとしただけだ」
大剣豪になる夢も、仲間を海賊王にする夢も捨てることになろうが、あの時はそんなことどうでも良かった。
「くいなとの約束も、ルフィとの約束も、果たすためには命を懸ける。おれにとってお前の命というのは、その二つの約束と同じぐらい重いんだ」
“だからお前にとっておれの命は重くて当然だ”と言って、未来の大剣豪は大きな笑みを浮かべた。