第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「おれはどのくらい寝てた?」
「丸三日」
「・・・そうか。迷惑かけた」
「謝るのなら、ペローナにもね」
ペローナも今回の一件には随分と参っている様子だった。
クレイオよりも長くミホークとゾロと生活しているだけに、その二人が殺し合うのは見ていられなかったのだろう。
「・・・・・・・・・・・・」
「クレイオ?」
先ほどから棘のある言い方をしているなとは思っていたが、今度は不機嫌そうにゾロの腕に巻かれた包帯を睨んでいる。
「おい、どうした」
俯いたまま何も言わないクレイオに、ゾロが眉間にシワを寄せながら顔を覗き込んだ時だった。
バシッと頬を叩く音が部屋に響く。
「無鉄砲にも程がある!!」
ゾロは左頬を叩かれたことよりも、クレイオが怒りで震えていることに驚いたようだ。
一瞬、呆気にとられた顔をしたが、すぐに目を吊り上げた。
「痛ェな、なにすんだ!」
「痛い? 負けると分かっていて“鷹の目”に真剣勝負を挑むぐらいだから、このくらいどうってことないでしょ!」
「お前、なに怒ってんだ」
「怒ってるんじゃない!」
ゾロがかけてやった毛布が床に落ちる。
ギシリとベッドが軋んだかと思うと、叩かれた頬の痛みの上に柔らかい手の温もりを覚えた。
「ただ・・・怖かった」
上半身をベッドの枠に預けているゾロの太ももの上に跨ったクレイオは、とても苦しそうな顔をしていた。
「貴方の狂気じみた目を見て・・・この人はここで死んでも気にしないんだと思ったら・・・すごく怖くなった」
“世界最強の剣士が本気でおれを殺しにきている・・・こんな機会は、滅多にお目にかかれねェ!!”
「これほど重い命があると分かった瞬間・・・それを失うのが怖くなった───」
酷く震えているクレイオの手。
過去に人の命を奪ったことのあるその手は今、ゾロが生きていることを確かめるかのように、顔や首筋に触れていた。