第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「お母さんが十字架に括りつけられて・・・火をつけられた時」
目の前で母が焼かれる光景は、7歳の少女には耐え難いものだった。
だがその小さな目は、炎に消えゆく母が最期の力を振り絞って何かを叫んだのを、はっきりと映していた。
その時、母の声は炎の轟音にかき消され、それを“音”として聞いた者はいなかった。
それでもクレイオには“届いて”いた。
まるで、“見聞色の覇気”が一瞬だけ彼女の中で開花したかのように。
「お母さんは、こう言っていた」
“ミホーク、私は貴方を赦します───!!”
赦すことこそが愛。
そう信じ、娘にも教えてきた聖女が、唯一“赦せない”と思っていた男。
自分を凌辱し、神に仕える道を奪ったのに・・・
「お母さんは・・・ミホークのことを愛してたんだと思う」
クレイオの言葉を聞いた瞬間、ミホークは右手で両目を覆いながら窓の方に顔を背けた。
おそらく、溢れる感情をシャンクスにも、クレイオにも見られたくなかったのだろう。
クレイオは瞳を潤ませながらそんな父を見つめた。
青いラピスラズリはミホーク。
桃色のローズクォーツはクレイオ。
それを交互に繋げたロザリオは、“夫婦”の愛の証なのかもしれない。
その珠を一つ残らず拾う父の姿を想うだけで、母に対する愛情は本物だったのだとこんなにも強く信じることができる。
「ミホーク、私はこれでこの島に来た目的を果たすことができた」
私の記憶にある母は、とても強い人だった。
でもミホークは、私の知らない母の弱さを知っている。
そして、その弱さを愛し、守ってくれた。
“お前の母親を愛していたかどうか、それは───見殺しにしたことが、その答えだ”
お母さんは死を望んでいた。
また、死ぬことでしか私を守れないと思っていた。
だから“見殺し”にしたのでしょう。
ありがとう・・・
ミホークのその苦しみがあったからこそ、私はこうして生きていられる。
クレイオは顔を背けたままのミホークから、シャンクスの方へ目を向けた。
「シャンクス、お願いがあるの」
「なんだ・・・?」
クレイオの願い。
それを聞いた四皇は、“可愛い弟子の頼みならば”と静かに頷くことしかできなかった。