第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「お前は何も言わなかったが、内心は腹立たしかっただろう? 大事な娘があんな危ねェ島に連れていかれたんだからな」
あれからもシャンクスとミホークは何度か決闘をした。
シャンクスがイーストブルーで片腕を失ってからは剣を交えることが無くなったが、一緒に酒を飲む機会はあった。
しかし、ミホークは一度もクレイオの話をしようとしなかったし、シャンクスも話すことは無かった。
クレイオをシッケアール王国に連れてきたのは、シャンクスにとって“賭け”のようなものだった。
これに勝てば、クレイオは本当の意味で人生をスタートさせることができる。
負ければ・・・母親を焼き殺した地獄の業火にいつか突き落される道を歩むことになる。
珍しく視線を逸らして話すシャンクスに、ミホークはウィスキーを口に含んでからフンと鼻を鳴らした。
「貴様らしくもない言葉を吐くのはよせ。寒気がする」
「おいおい、酷ェな。クレイオを弟子にした事には後悔してねェが、それでも気にはしてたんだぞ」
半端な海賊なら名前を聞くだけで震えあがる四皇は、少年のように口を尖らせながら不貞腐れている。
すると、ミホークは半分だけ空になっている友のグラスに酒を注ぎ足した。
「お前が自分で言った言葉を忘れたか」
「・・・?」
「このおれにとってお前ほど信用できるヤツはいない、と」
“心配するな。お前のガキに何かあった時は、おれが力になってやる”
「何より、お前“だけ”だったのだぞ」
ミホークはシャンクスを真っ直ぐと見て、ふと表情を緩めた。
それは他人からすれば無表情でしかないが、シャンクスには微笑んでいるようにさえ見えた。
「お前だけが・・・クレイオの誕生を心から喜んでいただろう」
“そりゃめでたい! 祝い酒だ、飲もう!!”
「むしろおれには、娘を任せられる人間がお前の他にはいなかった」
「ミホーク・・・」
「だから必要なのは、貴様の謝罪ではない」
かつての宿敵は、無二の親友に。
「今ここに必要なのは、おれの貴様への感謝だ」
おれとクレイオの代わりに、娘をずっと守ってくれていたことに・・・心から感謝する。