第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
二人が飲み始めてから、3時間は経とうとしているか。
初めて酒を酌み交わした時は、シャンクスから盃を受ける事を躊躇したものだが、今では当たり前のように同じ酒を飲んでいる。
「おれはずっと、お前に謝る必要があると思っていた」
シャンクスはそう言うと、ミホークの目の前のテーブルに置いてある小さな箱を見つめた。
蓋が開いたままのその中には、群青色とピンク色の珠がいくつも入っている。
「おれに謝る? 心当たりが多すぎて、どのことに対してか分からんな」
ジロリと睨むミホークに、いつもはヘラヘラしているシャンクスも、この時ばかりは真剣な顔でグラスをテーブルに置いた。
「お前の了解を得ずにクレイオを母親の故郷へ連れていったことだ」
「・・・・・・・・・・・・」
魔女狩りから数日後、娘を迎えに行くと言っていたはずのミホークが一人でシャンクスが滞在していた島に現れた時は、妙な胸騒ぎがした。
その予感は的中する。
7歳の子どもが躊躇なく大人を殺している姿を見た時、シャンクスはこのままでは“二人”の人生がダメになってしまうと思った。
「お前は七武海、おれは四皇と呼ばれちゃいるが、結局は海賊だ。明日にゃインペルダウンの“地獄のぬるま湯”に浸かってるかもしれねェ」
そんな自分達が、誰かに罪を償わせることなどできやしない。
それでも、あの少女に暗い道を歩いては欲しくなかった。
シャンクスが最も敬愛する、ゴールド・ロジャーの作った新時代に生まれた、海賊の血を引く命なのだから。
「人を殺すのは簡単だ。難しいのは、命の重さを知ること・・・他人はもちろん、自分自身の命の重さもな」
クレイオの母親は、ミホークと出会うまで自分自身の命の重みに気づけずにいた。
確かに二人の出会いを思えば、それは皮肉なことかもしれない。
けれど・・・
きっと彼女は幸せだったと思う。
自分の命を投げ出すことで測ろうとしていたその重みを、ミホークの愛情が教えたのだから。
その結果、クレイオという命が生まれた。