第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
“何を恐れているのですか?”
クレイオはそんなミホークの恐怖を悟っていた。
その上で、彼の欲望を受け入れていた。
彼女は・・・悪魔にも慈悲深い女だった。
「クレイオが妊娠したと聞いた時、彼女との繋がりを得たような気がした」
普段は酒豪のミホークも、今宵のウィスキーには酔ってしまったのだろうか。
それとも古い友の前だから気が緩んでいるのだろうか。
“鷹の目”はいつになく饒舌だった。
「どうせ結ばれることのない仲だ、二人の血が混ざった子がこの世に生まれるのは・・・嬉しかった」
しかし、その子はミホークの血しか受け継いでいなかった。
剣で人を殺す力を持っていても、“見聞色の覇気”は持って生まれなかった。
これはきっと、神に仕える女の人生を狂わせた天罰だったのだろう。
「だが、ゾロを殺そうとしたおれを止めたクレイオを見て・・・驚いた」
“・・・もう十分でしょう”
ミホークの斬撃を止めた覇気。
あれはまさしく、島の青年を殺そうとしていたミホークの前に現れた母親が、漂わせていたものと同じだった。
“それでもゾロを殺すというのなら、私を先に殺して。気にしないで、お母さんの所に行くのが少し早まるだけのことだから”
「覇気も、口にする言葉も、母親とまったく同じだったのだからな」
クレイオは生きていたんだ。
外からは決して分からないが、寄り添うように、守るように、娘の心の中で。
「まぁ、お前は自分でそれに気づくよりずっと前に、心じゃ分かってたんだろうな」
「・・・どういう意味だ、シャンクス」
「じゃなきゃ、お前ほどの男が“そんな状態”になるわけがねェ」
シャンクスは包帯が巻かれたミホークの左腕を指さした。
腫れ具合から見て、複雑骨折ぐらいはしているだろうか。
切断されてないだけマシというほどの重傷だ。
「自分の斬撃を素手で逸らすなんて正気の沙汰じゃねェ。頭で考えるより先に行動しちまったって感じだな」
「・・・・・・・・・・・・」
ゾロに向かって斬撃を放ったあと、臆せずに彼を守ろうと飛び込んできたクレイオが視界に入った瞬間、ミホークの身体は無意識のうちに動いていた。