第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
常に厚い雲で覆われているクライガナ島では、夜空に浮かぶ月の形はほとんど分からない。
それがミホークには好都合だった。
「にしても、おれは完全に無駄足を踏まされたな」
シャンクスはオンザロックのウィスキーを喉に流し込みながら、窓際の椅子に座って同じようにグラスを傾けている友の横顔を見た。
「お前がどうしてもっていうからクレイオを迎えに来たのに、まさかおれが到着する前に仲直りしてるとは思わなかったぜ」
「ここにいるのはクレイオのためにならんと思ったからな」
「だけど、それもお前の取り越し苦労だったってわけだろ?」
シャンクスは文句を吐いた割にはニヤニヤとしていた。
思いつめた表情をしたミホークから“クレイオを引き取りに来い”と言われた時は、この親子のためを思ってしたことが裏目に出たかと心配したが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。
シッケアール王国に到着したのは数時間ほど前だが、ミホークとクレイオは予想外に“親子”らしい雰囲気を漂わせていたから驚いた。
なんにせよ、この先も一緒にいるというのなら、それに越したことはない。
「クレイオにちゃんと話したんだろう? お前があいつの母親のことをどう思っていたのか」
「・・・ああ」
ミホークは真っ暗な空を見上げ、瞳を揺らした。
ここは月が見えなくていい。
満月を見ると、心の底に葬ったはずの歪んだ愛情が蘇ってしまう。
新月を見ると、彼女を失った悲しみと憎しみが蘇ってしまう。
“おれはお前の母親を恐れていた”
ゾロを半殺しにした翌日、ミホークが全てを明かすとクレイオは静かに涙を流した。
「クレイオを手に入れることも・・・失うことも・・・赦されることも・・・拒絶されることも・・・おれにとっては全てが恐怖だった」
手に入れたら最後、海賊である自分には彼女を不幸にしかできないことが分かっていた。
それでも失いたくなかった。
赦されるということは、彼女に自分を不幸にした男を受け入れさせるということ。
そんなことは不可能だと頭では分かっていても、拒絶されたくなかった。
本当にどこまでも歪んだ愛情だ・・・