第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
“ミホーク・・・貴方なら娘を一目見ればすぐに分かります”
黒い髪。
金色の瞳。
見慣れた顔立ち。
ミホークは初めて見る少女に、心臓が冷えていくのを感じた。
───なんてことだ・・・
「・・・・・・・・・・・・」
明らかに人を殺した剣。
自分が初めて剣を握ったのも、このくらいの年齢だった。
この子がクレイオの娘だというのか・・・?
どれほど彼女の面影を探しても、どこにもそれは無い。
見れば見るほど、残酷すぎる事実を突きつけられるようだ。
それは、ミホークがクレイオと“結ばれる”ことは、最後まで許されなかったということ。
だが、約束は果たさなければならない。
“生まれてくる子に名前をつけてください”
少女は鷹のように金色に光る瞳で、炎の中から現れた男をジッと見上げている。
“貴方が世界で一番美しいと思う名前を”
ミホークは祈るような想いで、あの時に応えた名前で少女を呼んでみた。
「クレイオ」
すると、少女は首を傾げた。
ああ、やはりクレイオは別の名前を付けていたか・・・
そう思った瞬間。
「貴方は・・・だぁれ・・・?」
どうして私の名前を知っているの?
少女はそう言いたげにミホークを見つめていた。
その顔を見た途端、数年前の記憶が鮮やかに蘇る。
“まあ・・・ならば、私はなんとこの子を呼べばいいかしら・・・”
そう言ってクスクスと笑っていたクレイオ。
あの笑顔が少女の顔と重なり、今すぐにでも抱きしめたいという衝動に駆られた。
面影などなくとも、愛おしい存在であることに違いはない。
だが、今は感傷に浸るよりも大事な約束がある。
娘を安全な場所に連れて行く、それがクレイオの最期の願いだ。
「おれと一緒に来い」
ミホークは剣を鞘にしまってから、少女に向かって手を差し伸べた。
すると、小さな手がおずおずと握り返してくる。
抱き上げると、その軽さにまず驚いた。
子どもとはこんなにも小さくて弱いものだったのか。
クレイオはずっと一人でこれを守ってきたのだな。
炎が届かないように娘を大事に懐に抱きながら、ミホークは灰となっていく愛する人に背を向けた。
おれ達の娘は死なせないと、別れの言葉の代わりにもう一度誓いながら───