第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
それは神の怒りの表れか。
教会だけでなく、周囲の雑木林へ引火していく炎。
呼吸するだけで喉が焼かれるほどの熱の中、ミホークは真っ直ぐと教会へ向かっていた。
そしてついに処刑の場にたどり着いた所で、その足が止まる。
「・・・貴様は・・・!!」
目の前に立っていた村長らしき男が、ミホークの顔を見てすぐに“鷹の目”だと悟ったようだ。
一太刀で殺すついでに、その男の隣にいた若い男の首も刎ねた。
二人が倒れたことで開けた視界の先には燃え盛る炎。
ゴォという音が、どれほど強い火であるかを物語っている。
皮膚が焼けただれること覚悟で手を差し込んでも、魔女を救い出すことはもうできないだろう。
“ここはとても閉鎖的で無知な島です。もし一晩で10人以上が死んだとあれば、この島の人達は祟り、もしくは悪魔の所業と恐れるでしょう”
クレイオ。
ここへ来るまでに何十人も殺したおれは、確かに悪魔なのかもしれない。
“私は修道女では無くなりましたが、それでもこの島の人達を守りたいという気持ちは変わりません”
悪魔の瞳に映るのは、かろうじて人間と分かる焼死体。
髪も、顔も、肌も、全てが無くなり、ただの黒い肉の塊でしかなくなっている。
それでも・・・
お前はそれでも美しい。
“ジュラキュール・ミホーク、私は貴方の望み通りにいたしましょう”
“今も、死を迎えるときも”
凛とした一輪の花。
穢れた手で摘み取っても、その美しさと気高さは損なわれなかった。
「クレイオ・・・」
“私を先に殺しなさい。躊躇うことはありません、神のお傍に行くのが少し早まるだけのこと”
お前はいつもどこか死にたがっているように見えた。
おれはお前の望みを叶えることができたのだろうか。
顔に飛んでくる火の粉、これはお前の身体の一部だったものだろうか。
ならば・・・
この熱を、この愛おしさを、この虚しさを、生涯忘れることはないだろう。
「クレイオ・・・お前はその優しい心だけ持って逝け。苦しみや心配はここに全て置いていけばいい」
夜空へと上がっていく火の粉に、想いを預ける。
そしてミホークはゆっくりと視線を礫柱から下に落とした。
そこにいたのは、血がべっとりとついた剣を握りしめた少女。