第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
“焼き殺せ!! 魔女を地獄へ落とせ!!”
クレイオほどではないが、“見聞色の覇気”はミホークも扱える。
神経を研ぎ澄ませれば、数キロ先にある教会の方から狂気じみた声が聞こえてきた。
なんと醜い雑音なのだろうか。
「“神の御名において”・・・だと? 神がクレイオの命を欲したというのか」
腹の底から湧き上がる怒り。
ああ、もはやこれは狂気なのかもしれない。
これを鎮めるには・・・
「ならば、貴様達の好きな神とやらに祈るがいい」
不気味な足音をたてながら歩くミホークの目に、一軒家が飛び込んでくる。
丁度、魔除けのニンニクを軒下にぶら下げようと、その家の主が入り口に立っていたところだった。
「ひぃ!!」
突然暗闇の中から現れた海賊の姿に、男は悲鳴を上げた。
だが、助けを呼ぶ前に、その首は胴体から切り離される。
ゴロゴロと毬のように転がっていく頭。
残された身体は、そのままの場所で激しく血を吹き出しながらゆっくりと崩れていった。
「神に祈るがいい・・・悪魔とすれ違わぬように、とな」
殺すまでに一瞬の躊躇いも無かった。
ニンニクの強い匂いに顔をしかめたミホークが持つのは、血に飢えた剣。
“おれはこれからもこの島に来る。海岸から村へ向かう間、すれ違う人間を殺していく。お前の顔を見るまで、一人ずつだ”
新月の夜に現れた悪魔は、すれ違う村人一人一人の命を奪っていった。
愛する人の顔を見るまで、目に映る者の首を刎ねていく。
「悪魔だ・・・悪魔が来た! 皆に知らせろ!!」
怯えて逃げる者も容赦しない。
女や子ども、老人だろうと容赦しない。
火の粉が上がる教会の方へ歩きながら、悪魔の剣は次々と命を狩っていった。
だがこの時、彼はまだ知らない。
「殺した・・・子どもが人を殺したぞ!!」
魔女狩りが行われていた教会では、年端もいかぬ少女がやはり人の命を奪っていたことを。
悪魔が歩いた道の後ろには死体の山。
少女を取り囲むのは地獄の業火。
十字の礫柱に括りつけられ燃えていく聖女を愛した二人の“鷹の目”は、すでに人間の心を失っていた。