第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
それからほどなく、クレイオの島から一番近い島に滞在していたミホークのもとに、一通の手紙が届いた。
それには彼女の字で、数日以内に魔女狩りが行われそうだとだけ書かれていた。
すぐに出立したミホークが島に着いたのは、それから二日後の新月の日。
陽が落ちてから船を海岸に寄せ、そのまま月の無い夜空を見上げていた。
満月でない日にここに来たのは初めてだ。
それだけの事なのに、まるでここが見知らぬ地のように思える。
数時間ほど停泊させた船で空を眺めていただろうか。
島の中央の方から、微かな怒声が聞こえてきた。
“魔女を処刑しろ! 神の御名において!!”
とうとう始まった、魔女狩り。
ミホークのいる海岸から距離にして、3キロほどか。
今行けば、間に合う───
「・・・・・・・・・・・・」
だが、ミホークは動かなかった。
「どこまでも愚かな女だ・・・」
一言、“生きたい”とさえ望んでくれれば・・・
何を犠牲にしても、彼女と娘を逃がしていただろう。
二人が安心して生活できる地に連れていくこともできた。
だけど、クレイオが望んだのは死。
彼女は疲れてしまっている。
“見聞色の覇気”で人の醜い声を聞き続けることも、
“異質なもの”として白い目で見られることも。
それでもこの島を愛そうとしていた。
おそらく、そうしなければ自分の生きている価値を見出せなかったのだろう。
せめて覇気をコントロールできれば良かったのかもしれないが、それには武術の修行がどうしても必要になる。
“無意味な死を増やさないでください”
人を傷つける方法を覚えるぐらいなら、自分が苦しむ道を選ぶような“愚か”な女だからこそ、ミホークはここまで惹かれた。
「お前の望むことをする・・・おれがお前にしてやれることはそれだけだ」
それが、愛したが故に傷つけてしまったことへの償い。
全てを闇で覆う、新月の夜。
星の明かりとは違う赤い光が、森の向こうに灯る。
───魔女狩りが始まった。
同時に、ゆっくりと瞼が閉じられていく“鷹の目”。
それが再び開かれた時、ミホークは悪魔となっていた。