第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
むなしいことと分かっていても、考えずにはいられない。
もし、ミホークが海賊でなかったら。
もし、クレイオが修道女でなかったら。
もし、二人の関係の始まりが優しいものだったなら。
「クレイオ、おれはお前に何も望まん」
ミホークが海賊だったから、クレイオが修道女だったから、二人はこうしてグランドラインの小さな島で出会うことができた。
それがいずれかを不幸にすることになったとしても。
「死ぬと決めたお前から、何かを取ろうとも、奪おうとも思わない」
だから、お前はその優しい心だけ持って逝け。
苦しみや心配はここに全て置いていけばいい。
お前が抱えてきた苦しみは全ておれが始末する。
お前が抱えている心配は全ておれが解決させる。
「娘は必ず守る。お前の望むことをする・・・おれがお前にしてやれることは、それだけだからな」
おれはお前に赦してもらえるとは思っていない。
出会ってからずっとお前を脅し、その身体を凌辱してきた。
その償いにはならんだろうが、お前が望む道を誰かに邪魔はさせない。
たとえ、愛する女が業火に焼かれている姿を見ることになろうとも───
「・・・ミホーク・・・」
クレイオの目からは涙が零れていた。
ジュラキュール・ミホーク・・・
瓦礫の上に産み落とされた私は、両親の顔を知りません。
太陽の光を見るよりも先に、血の赤を知りました。
言葉を覚えるよりも先に、憎しみや怒りの声を知りました。
神に導かれてやってきたこの島でも、私を本当に受け入れてくれる人はいませんでした。
でも・・・貴方だけは・・・
どのような形であれ、私を求めてくれた。
“おれはお前の顔を見るまでこの島の人間を殺す”
私一人の命と、大勢の人間の命を天秤にかけた貴方。
非情なその言葉を受け入れることができたのは、生まれて初めて私自身の命の重みを感じることができたから。
「ありがとう・・・ミホーク・・・・・・」
ミホークの唇に自ら寄せた、クレイオの唇。
それらが重なり合った時、朝露で冷えていた男女の肌が再び熱を帯び始める。
二人を照らしていた最後の満月はすでに、輝く朝陽とともにその姿を消していた。