第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
この7年。
クレイオは島の人間の命を守り続けた。
満月の夜になるとミホークと墓場で会い、彼の欲望を受け止める。
終わればすぐに衣服を整え、夜明け前には娘のもとへ帰っていくのだが、この日は違った。
「魔女狩りをご存知ですか?」
白い肌を露わにしたまま、乱れた髪の間からミホークに静かな瞳を向ける。
魔女狩りとは、悪魔と契りを交わしたとされる人間を処刑すること。
今では世界政府によって禁止されているが、信仰深く鎖国的なこの島では今だに行われていた。
「作物が不作だったことも、伝染病も、ここでは悪魔の仕業とされます。そして、その悪魔と繋がりを持つ魔女が殺される」
「・・・下らん」
「ええ、貴方にはそうでしょう。きっと、この島の中にもそう思っている人はいるはず」
だけど、魔女狩りは避けられない。
何故なら、それでしか“狂気”を止めることができないから。
「人は不安に陥ると、捌け口を求めずにはいられなくなります。この世のあらゆる不幸は魔女のせい、だからそれを殺すことで自分達が救われようとするのです」
───そして、私がその魔女として狩りだされる。
「私はこの島では異質な人間だから・・・」
クレイオは、はだけたままのミホークの胸に身体を寄せ、己のことを語り始めた。
普段なら娘のもとに帰っている時刻だが、もうすぐ空が白み始めるというのにミホークのそばを離れようとしなかった。
「実は私はこの島の人間ではありません。生まれは別の島・・・国家とは名ばかりの、世界政府も見放した犯罪が蔓延する国でした」
両親の顔は知らない。
ただ、この容姿から金髪と青い目をしていたと推測できる程度だ。
「産み落とされた子どもはほとんどが孤児・・・世界政府の建てた教会が孤児院代わりでした。神父様もいましたが、あまりに悲惨な島の状況に、長く勤められる方はいませんでした」
クレイオをこの島に連れてきた神父もその一人。
志高く、派遣を志願したが、彼も一年ともたなかった。
不衛生、食糧難だけでなく、治安の悪さで命の危険を感じる毎日に耐えられなかったのだろう。
逃げ帰る前、自分への戒めとして故郷の人間に近い容姿をしている少女を引き取った。
それがクレイオだった。