第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
一度目は、賞金目当てに自分の首を狙った青年達を殺すため、
二度目は、そこで出会った女を犯すため、
満月の夜にこの島を訪れたミホーク。
目的を果たした後、冷酷な海賊はこう言った。
“おれはこれからもこの島に来る。海岸から村へ向かう間、すれ違う人間を殺していく。お前の顔を見るまで、一人ずつだ”
修道女は自分が犯されると分かっていながら、海賊の要求に従い続けた。
全ては島の住人の命を守るため。
「私は修道女では無くなりましたが、それでもこの島の人達を守りたいという気持ちは変わりません」
しかし、クレイオの瞳にはもう、一年前のような毅然さは無かった。
目の前の悪魔に怯えているのか、その身体が小刻みに震えている。
「ああ、そうだ。おれはお前の顔を見るまでこの島の人間を殺す」
この島に来る、たった一つの目的。
クレイオ、お前に会うためなら、おれはお前すらも死を突きつけよう。
ミホークが堪らず身体を抱き寄せた瞬間、クレイオは今にも泣き出しそうな表情をした。
結局、二人の血が交じり合った命が生まれても、二人の関係は何も変わらない。
恐怖で縛りつけ、抗えば大量の血が流れる。
ミホークは、クレイオとこの島にとって、“悪魔”以外の何物でもなかった。
「私は・・・貴方を赦せる日が来るのでしょうか───」
ミホークの背中の服をギュッと掴む、震える手。
“赦すことこそが愛”
そう信じるが故、ミホークを赦すということの意味はあまりにも重い。
しかし、自分を迫害する人間すら赦すことができる彼女にとって、それができないという時点で、この男が“特別”であることは間違いなかった。
初めて怯えた表情を見せ、体温を求めてくるクレイオがこれほどまでに愛おしいのに・・・
「おれは誰かの赦しを請いたいと思ったことはない」
お前に赦されたいとは思っていない。
そもそも、赦してもらえるとも思っていない。
恐怖と苦痛を与えることでしか、おれはお前と繋がっていられないのだから。
「もしお前が全てを終わりにしたければ・・・島の人間の命を犠牲にすればいいだけのことだ」
クレイオとの繋がりを自ら断ち切ることはできない。
残酷な選択を強いることでしか、ミホークは彼女に触れることができなかった。