第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「・・・まぁ、事情は知らねェが・・・」
シャンクスはミホークの横顔をチラリと見ながら、少しだけ酒を口に含んだ。
「お前はただの海賊じゃねェ・・・そんな男の娘だ、いずれ何か起きるに決まってる」
海軍にその存在を悟られたらどうする?
お前を倒そうとしている他の海賊がその命を狙ったらどうする?
「それでもお前は不器用な男だから、惚れた女の言いつけは守るだろうな」
「・・・・・・・・・」
“この子は神から授かった命として、私一人で育てます”
もし彼女の言葉を裏切ったら・・・
最後に会った夜に見せてくれたような笑顔を、もう二度と向けてくれないかもしれない。
「だが、心配するな。お前のガキに何かあった時は、おれが力になってやる」
「・・・?」
シャンクスは、空になっていたミホークの杯に酒を注いだ。
なみなみと、淵から溢れ出るまで。
そして、手が濡れていることも気づかずに自分を見つめる“鷹の目”に、朗らかな笑顔を向けた。
「お前とお前の女の間で交わした約束は、おれには有効じゃないからな」
「・・・信用できん」
「ははは、お前にとっておれほど信用できるヤツはいねェぞ?」
酒が溢れる杯は、友情の証。
「おれとお前は“殺し合う仲”だからな」
どのような形であれ、命を懸け合う相手は裏切らない。
今夜は祝い酒。
飲み明かそうぜ、ミホーク。
おれは嬉しいんだ。
“船長”によって幕を開けたこの大海賊時代に、新しい命が生まれたことが。
「・・・ああ」
シャンクスと酌を交わしながら想うのは、彼方の島の女。
この血に染まった手では、彼女が生んだ子を幸せにすることなどできない。
だから、関わらないでいた方がいい。
ミホークは上弦の月を見上げ、そっと目を閉じた。
顔も、名前も知らない娘がただ、無事に生きてくれることを願って───
だが、数年後。
運命の輪は残酷な終焉へと、ミホークとクレイオを誘う。