第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
最初のお願い。
それは・・・
「生まれてくる子には、一切関わらないでください」
海賊の子が幸せになれるはずがない。
海賊が誰かを幸せにできるはずもない。
ならば、最初から父親の存在など無いものとして育てた方がいい。
「この子は神から授かった命として、私一人で育てます」
クレイオの言葉には迷いが無かった。
この決断によってミホークの機嫌を損ねてもいい。
そうなれば、お腹の子とともに死ぬ覚悟だった。
「・・・分かった、お前の望み通りにしよう」
ミホークが頷くと、クレイオは安堵したように微笑んだ。
同時に、その笑顔はどこか寂しそうで。
それはきっと、普通の家庭を我が子に与えてやれない事を申し訳なく思っていたからなのかもしれない。
「では、もう一つのお願いです」
迷いなく口にした一つ目の願いとは違い、今度は少し間を置いている。
どうしたのかと横顔を覗くと、クレイオはミホークの目を見て微笑んだ。
「生まれてくる子に名前をつけてください」
「・・・名前?」
「はい・・・貴方が世界で一番美しいと思う名前を」
あの時の笑顔はきっと、一生忘れない。
小耳にはさんだ、とある天竜人が世界中の美麗な男女を集めて人造的に美女を作っているという噂。
それによって生まれた、呼吸すら忘れる美しさと謳われる少女達ですら、いま目の前にいるこの修道女に匹敵する微笑みを見せることはできないだろう。
ミホークはクレイオの腹を優しく撫でながら、生まれてくる我が子に名前を与えた。
「──────」
彼が世界で一番美しいと思う、その名前を。
するとクレイオはクスクスと笑った。
「まあ・・・ならば、私はなんとこの子を呼べばいいかしら・・・」
“私の可愛い天使”とでも呼びましょうか。
ミホークの手に重なる、クレイオの手。
その夜、海賊は修道女を抱かなかった。
ただ静かに寄り添い、満月を見上げる二人。
その頭上には、いつもより優しい光が降り注いでいた。