第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
しかし、ほんの少しだけ運命の輪がその回転を変えたのは、二人が出会ってから五度目の満月の夜のこと。
「───身籠りました」
いつものように墓の前の芝生に押し倒し、キスをしようとしたところで、クレイオの言葉がミホークを制止した。
流石の剣豪も、その言葉を噛み砕くまでに時間を要した。
数秒してから、金色の瞳をクレイオに向ける。
「・・・そうか」
“おれの子か?”と聞けるはずもなかった。
クレイオはあれからもずっと修道女を続けているし、少しも性行為に慣れた様子を見せないから、彼女の身体を凌辱しているのは自分だけだという確信があった。
妊娠させてしまう恐れがあることを、ミホークも失念していたわけではない。
だが、その言葉を聞いた瞬間、心臓が冷えるような感覚を覚えた。
クレイオはいつもよりも青白い顔をして、ミホークに押し倒されている。
───この身体の中に・・・自分と同じ血を持つ命が眠っているのか・・・
ミホークはクレイオを抱き起すと、墓石にもたれかかりながら背中から抱きしめた。
「おれにできることがあるならば言え。なんでもする」
金は十分に用意しよう。この島で一番上等な家も建てよう。
おれは生き方を変えることはできないが、お前と生まれてくる子どもの望みは全て叶えよう。
すると、クレイオは少しだけ意外そうな顔をした。
「貴方は疑いも、逃げもしないのですね」
「お前に何をしてきたか、自分が一番よく分かっている」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオはしばらく黙っていたが、ふと微笑み、白銀に光る月を見上げた。
「───では、二つだけ・・・お願いがあります」
僅かに膨らみ始めた腹にそっと置かれたミホークの手。
その温もりを感じながら、クレイオは口を開いた。