第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「クレイオ・・・」
満月の夜、墓の前で男の欲望の餌食になる彼女は、純潔が損なわれたにも関わらず美しい。
海の上で何度、この顔を思い出したことか。
立ち寄った島で若い女を見かける度に、何度この顔と比較したか分からない。
そして最後に思うのだ。
───欲しい、と。
「・・・ああっ・・・」
クレイオはおそらく、ミホークの顔は二度と見たくなかっただろう。
血に染まった手に触れられたくはなかっただろう。
それでも彼女は逃げない。
「聖母様・・・どうか私をお守りください」
“私はただ、“声”が聞こえてきた人を救いたいと思っているだけです”
ミホークの“声”はきっと、彼女に響いている。
だからこそ、この野獣のような欲望をその細い身体で受け止めているのだろう。
そして、必死に赦そうとしている。
「・・・クッ・・・」
ミホークの白濁とした精液が、クレイオの胎内に吐き出された。
強い快感で身体はこんなにも熱を帯びているのに、ミホークの頭は逆にどんどん冷えていく。
誰も殺していないのに、辺りに漂う血液の匂い。
無理な性行為でクレイオの太ももに血がこびりついていた。
墓石の角にぶつけたのか側頭部と、唇にも裂傷があった。
あとは・・・腕を抑えていたからどこかの関節が外れてしまっているかもしれない。
脅してまで奪ったクレイオの純潔だったのに、満足感は微塵も無かった。
彼の心にあるのは・・・
「・・・ジュラキュール・ミホーク」
“声”が聞こえたのだろうか。
クレイオは浅く呼吸しながら、ミホークを初めて見上げた。
「・・・・・・・・・・・・」
だが名を呼んだだけで、それ以上は何も言わなかった。
自分を犯した男にかけてやる言葉などない、ということか。
ミホークはクレイオを解放するように離れると、夜空を見上げた。
二人の頭上に浮かぶ、満月。
一度目の月夜は、商人団の青年達の血。
二度目の月夜は、クレイオの血の匂いが二人を包み込んでいた。