第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
単一民族の、しかも人口が少ない場所で生きるには、“人と同じ”でなければならない。
調和を乱す異質なものを嫌うからだ。
そういう意味では、修道女にとってこの島はとても生きにくい地なのかもしれない。
「シスターはよくその時間に外にいられましたね?」
深夜に出歩いていたことを訝しんでいるのか、村人達が修道女を取り囲んだ。
修道院は事件があった場所から離れている。
神に仕える身である彼女が、満月の夜にあの場所にいったい何の用があったというのか。
修道女は逃げることなく彼らと視線を合わせると、毅然とした態度で答えた。
「床に入っていましたが、夢うつつに商人団をお救いせよとの神の御声が聞こえてきました」
だから急いで着替えて“声”のする方へ向かっただけのこと。
何もやましいことは無い。
「神の声、ね・・・」
リーダー格の男はうさん臭そうな顔をしながら、修道女をジロジロと無遠慮に見ていた。
だが、彼女が青年の命を救ったことに間違いはない。
何かを言いたそうにしながらも、それ以上追及することは無かった。
このような島では、秩序と調和が重んじられる。
だが、修道女は幼い頃から“異質”な存在だった。
人の心を見透かしたかのように、思っていることを言い当てる。
特に、恐怖や嫌悪などの“負の感情”を彼女の前で隠すことは不可能だった。
憎み、嫉妬、恨み、不満、破壊衝動、劣等感・・・
誰かが他人に対してそれらを抱いた時、修道女は何も言わなくても全てを悟り、感情が晴れるまでその人間に寄り添おうとする。
それで救われる者もいたが、大多数は気味悪がった。
“あの修道女はどこかおかしい”
さらに彼女には両親がいないという事も、島の人間から敬遠される理由だった。
海賊から島の人を守るためなら、自分の命を喜んで差し出そう。
そう言った修道女は、この島で誰よりも孤独だった。
その悲しいまでに清らかで慈悲深い聖女に触れたのは、皮肉にも悪魔の手。
10人以上の若者を殺した海賊は、月が欠けてまた満ちる頃、再びこの島に姿を現した。