第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
信心深く平和な島で、一晩のうちに11人の若者が殺された。
その凶報は瞬く間に広がり、様々な憶測を呼ぶ。
商船の荷物が荒らされていなかったから、強盗目的ではない。
ならば、快楽のために男達は殺されたのだろうか。
いくら深夜とはいえ、村の誰にも気づかれずに11人もの命を奪う、そんな悪魔のような事ができるのは・・・
「ジュラキュール・ミホークという海賊です」
生き残った1人が、教会に集まってきた村人達の前で証言した。
「本当か?! 悪魔の仕業ではないのか?!」
「でも、11人も殺すなんて・・・信じられない」
修道女の予想通り、島の人間達は道端で折り重なった11体の死体を見て、悪魔の仕業だと思い込んでいた。
もし、生き残りの彼がミホークの名前を出していなかったら・・・否、もし彼が生き残っていなかったら今頃、“悪魔探し”が島中で行われていただろう。
「おれ達が出先でミホークがいると知って、海軍に引き渡そうとしたんです。彼の首には多額の賞金がかけられていたから・・・それが彼の怒りを買いました」
だが、ミホークはもうこの島にいない。
一人乗り用船が無くなっていたから、間違いないはずだ。
「ジュラキュール・ミホーク・・・海軍に通報した方が良いだろうか」
「それはやめた方がいい。また怒りを買ったらどうする」
海賊の仕業ということで納得したものの、村人達はさらなる災いを呼ばないよう、“泣き寝入り”をすることで一致した。
ともあれ、これで生け贄や魔女狩りが行われなくて済む。
青年と修道女はチラリと目を合わせ、安堵して互いに頷いた。
「それにしてもお前だけでも助かって良かったな」
「ちょうどシスターが通りかかって・・・さすがの海賊も、聖職者の前では人殺しができなかったようです」
「ほう、シスターが・・・」
その瞬間、村人達と修道女の間に緊張が走る。
彼女に向けられた冷ややかな視線に、生き残った青年は困惑した表情を浮かべた。