第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
この島の住民はどうやら、総じて容姿に優れているらしい。
女は整った顔に柔らかな笑みを浮かべながら、震えている青年とミホークの間に立った。
そして、両手を下げ加減に広げ、まるでミホークを迎えるような仕草を見せる。
「無意味な死を増やさないでください」
貴方にとって、ここでの殺生は単なる快楽でしかないでしょう。
「もし、どうしても殺さなければならないというのなら・・・」
ドクンとミホークの心臓が大きく鼓動した。
恐怖とも焦燥ともつかない胸騒ぎで心拍数が上がる。
以前にも同じ感覚を覚えたことがある・・・
「私を先に殺しなさい。躊躇うことはありません、神のお傍に行くのが少し早まるだけのこと」
海賊王が処刑台の上で笑ってみせた、あの姿を見た時と同じだ───
「貴様・・・何故、微笑んでいられる?」
「では、泣き叫んだ方がよろしいでしょうか? この世に生まれ落ちた人間が、最初にそうするように」
「・・・・・・・・・・・・」
「私が命を差し出すことによって、何か一つだけ貴方にお願いすることができるなら・・・どうか彼を生かすことを許してください」
暗闇から突然現れた修道女は、微塵も憶することなく身代わりになろうとしている。
ミホークほどの剣士なら、簡単に斬り捨てることもできた。
だがそれができなかったのは、彼女の纏う空気に圧倒されていたから。
おそらくこの女は・・・覇気使いだ。
「何故・・・この男の代わりに命を差し出す・・・?」
「ここはとても閉鎖的で無知な島です。もし一晩で10人以上が死んだとあれば、この島の人達は祟り、もしくは悪魔の所業と恐れるでしょう」
そうなれば、神の怒りを鎮めるために生け贄、もしくは悪魔かその手先とされる魔女を仕立て上げ、罪もない人間が死ぬ羽目になるだろう。
「でも、一人でも生き残れば、彼は証言してくれるでしょう。この大量殺人は異国の海賊がやったこと・・・そして、その海賊は“すでに”この島から出て行った、と」
それはつまり、“自分を殺したら速やかにこの島から出ていけ”ということ。
彼女は自分の命と引き換えに、この島を守ろうとしていた。