第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
もしここが村の中心ならば、誰かが助けに来てくれたかもしれない。
だが、海から続く寂しい一本道で、しかも時刻は深夜0時。
一番近い建物といえば数キロ離れた教会ぐらいで、奇跡が起こらない限りこの悪魔から逃げられそうも無かった。
「さて、残るはお前だけだ」
12人の若い男達で結成された商人団で最後に生き残ったのは、そばかす顔の青年。
腰を抜かしているのか、少し離れた場所で座り込み、十字架を握りしめている。
「どうか・・・どうか命だけは・・・」
この島の住民はどうやら、信仰心が厚いらしい。
これまで斬り捨てた男達も皆、十字架を身体のどこかに忍ばせていた。
「ならば、そのまま祈っていろ。少しでも苦しみなく死ねるように、と」
若いミホークは、剣の扱い方すら知らない人間に首を狙われたことに少なからず腹を立てていた。
そうでなければ、ここまで執拗に命を奪おうとはしなかっただろう。
鷹のような目で青年を見下ろし、その首筋を斬ろうとした、その時だった。
「・・・もう十分でしょう」
まったく意識していなかった場所から聞こえた、女の声。
ミホークは振り下ろしかけた剣を止め、そちらの方に目を向けた。
「その方を殺して、貴方はいったい何を得るというのです」
いつもよりも明るい満月の光に照らされ、木々の間から浮かび上がったのは修道服を着た女だった。
おそらく教会からの一本道を歩いてきたのだろう。
しかし、何故こんな時間に?
いや、それよりも・・・
「貴様・・・何者だ」
声をかけられるまで、まったく気配に気づかなかった。
全身が黒い衣服ということを差し引いても、ここまでミホークに悟られずに接近できるのは相当な手練れである証拠。
すると女は銀白の光を浴びながら微笑んだ。
「私は神に仕える者・・・どうかこの十字架に免じて、その方を許していただけないでしょうか」
そう言ってロザリオを握った右手をミホークの前に差し出した。