第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
それは、満月が美しい晩だった。
一隻の一人乗り用船が、グランドラインのとある孤島に停泊していた。
持ち主の姿は無く、代わりに砂浜に残っていたのは革ブーツの足跡。
それは、一人の海賊がこの島に上陸した証だった。
満月の夜には不吉なことが起きるというが、それは本当だろう。
人口500人足らずの小さな島では今、戦慄が走っていた。
「助けてくれ、どうか命だけは・・・!!」
青ざめた顔をした青年が、悪魔のような目をした男に命乞いをしていた。
彼の後ろには死体が10体。
いずれも一太刀で急所をやられている。
青年は失禁でズボンを濡らしながら悪魔の前で土下座をする。
「おれ達はただ、金が欲しかっただけだ・・・! ほんの出来心だよ!!」
彼は、この島出身の商人だった。
他国との貿易はほとんどやらない鎖国的な島だが、自給できない物資は近隣の島へ調達しに行く。
その先で彼らは、たまたま島に滞在していたミホークの首を狩ろうとした。
「あんたの首にかけられている懸賞金・・・それがあれば、島の古い教会を建て直すことができると思ったんだ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「神に誓ってもいい! おれ達はあんたを殺すつもりは無かった」
賞金首を海軍に突き出す時は、生死を問わない。
殺さなくてもミホークの居場所を海軍に知らせれば、まとまった金が入ると欲に目がくらんだだけだった。
「何を誤解している・・・?」
剣士は残酷に光る剣を青年に向け、僅かに首を傾げた。
「おれがお前らを殺すのは、ただの“暇つぶし”だ」
たまたま都合よく首を狙ってきてくれただけのこと。
羽虫を潰すのは趣味ではないが、一夜の興ぐらいにはなるだろうと思い、ここまで追いかけてきた。
「海賊に手出しをしようとした、己の浅はかさを呪うがいい」
10代後半から30代前半までの若い男達。
先の島で首を狙ってきてくれて助かった。
シャンクスとの決闘の予定もなく、退屈していたところだ。
「ヒィ・・・!!」
振り下ろされた刀が、ミホークの目の前で土下座をしていた男の首を刎ねる。
真っ赤な鮮血が、夜空に浮かぶ満月を染めんばかりに吹き上がった。