第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
速度、威力、攻撃範囲・・・
一本の剣が生み出すことのできるそれら全てを、極限にまで高めたのが世界最強の剣士による斬撃。
もはやそれは、何万本もの刃が折り重なった衝撃波だ。
「ゾロ!!」
ペローナが悲鳴を上げた。
だが、その声が届く前にミホークの斬撃はゾロに達する───
はずだった。
ミホークと、ゾロの視界に群青色とピンク色の光が飛び散る。
それら一つ一つが、真珠ほどの天然石だということに気づくまで、コンマ数秒。
「───え・・・?」
ゾロは自分の前に立つ人影に我が目を疑った。
「・・・もう十分でしょう」
腕を下げた状態で両手を広げて佇むその姿はまるで、罪人すらも優しく見守る聖母像。
ミホークの脳裏に、忘却の彼方に葬ったはずの声が蘇る。
“無意味な死を増やさないでください”
「それでもゾロを殺すというのなら」
“私を先に殺しなさい。躊躇うことはありません、神のお傍に行くのが少し早まるだけのこと”
「私を先に殺して。気にしないで、お母さんの所に行くのが少し早まるだけのことだから」
グランドラインの孤島で出会った、修道女。
金色の髪と、碧い目がとても美しかった。
だがそれ以上に、よほど神に愛されていたのだろう。
人を傷つける術を一切持たない彼女は、名高い海賊すらも圧倒するほどの覇気を漂わせていた。
「・・・・・・・・・」
ミホークの斬撃を受けたはずの身体には、一切の傷が無い。
しかし、首から下げていたロザリオが身代わりとなってバラバラになっていた。
それはまるで、ロザリオに込められた“祈り”が、彼女を守ったかのようにも見えた。
「クレイオ・・・」
地面に散らばった、ラピスラズリとローズクォーツ。
清らかな石の中で佇む娘の名を、ミホークは口にした。
とても、とても愛おしそうに───
同時に、鞘にしまわれた黒刀。
ゾロはクレイオの背後で力尽きて倒れていた。
「・・・“クレイオ”の覇気を・・・また感じることができるとはな」
「ミホーク・・・?」
ミホークは足元に転がってきたロザリオの石の一つを拾い上げると、懐かしそうに瞳を揺らす。
そして、クレイオとゾロに背を向け、静かに闇の中へ消えていった。