第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
重たい夜の空気が二人を包む。
ミホークはかざしていた黒刀を下ろすと、ふと口元に笑みを浮かべた。
「随分とクレイオのことを知っているような口ぶりだが」
「ああ、全部聞いた。あいつの母親のことも、お前がクレイオを助けたこともな」
「それを知ったところで、貴様には何もできん」
するとゾロは額から垂れてきた血が目に入るのも構わず、真っ直ぐとミホークを見据えた。
「───クレイオを殺すことはできる」
二人の間に落ちてきた枯れ葉が、まるで無数の刀で斬られたように粉々に散る。
覇気と覇気の静かな衝突は、辺りの地面すら震わせていた。
「クレイオを愛することも、な」
覚悟を秘めた言葉は時に、どのような名刀すらも届かない場所に深く突き刺さることがある。
ミホークはゾロを熱の無い瞳で見つめていた。
否。
熱を殺した瞳で、見つめていた。
「どちらも、お前にはできねェことだろ? ミホーク」
お前はクレイオを愛することができないばかりか、殺すこともできない。
親子して中途半端な野郎だ。
「それと、この真剣勝負と、何の関係があるというのだ」
「おれはクレイオに約束した。あいつが誰かを殺したら、おれがあいつを殺すと」
「・・・・・・・・・・・・」
「あいつは人を殺した後、その罪を絶対に忘れない。今はいいかもしれねェが、それが積もり積もったら、いつかあいつはその苦しみに押しつぶされる」
残念ながら、海賊であるおれはあいつのそばにいてやれない。
手の届かない場所で潰れられるくらいなら、あいつを死の恐怖で縛った方がいい。
“人を殺せば、おれがお前を殺す”と。
「だから、あいつがお前を殺そうとする前に、おれがお前を倒さなきゃならねェ」
その結果、おれがお前に殺されたら、そん時はそん時だ。
ルフィもまぁ、許してくれるだろ。
おれが自分で決めたことだからな。
「クレイオを殺す・・・おれを倒すだと・・・?」
ミホークが初めて足を動かした。
数歩分、間合いを広めに取ると、失血量が多くて青ざめた顔の弟子に冷ややかな目を向ける。
「それほど殺されたくば、望み通りにしてやろう」
そして黒刀を構えた、その瞬間───