第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「確かに、今のおれには何もできねェな・・・」
ゾロはニヤリと笑うと、口から落ちそうだった『和道一文字』を咥え直した。
「でも、これは“真剣勝負”だ。稽古と違って、勝負は“命”をもって決まる」
「・・・・・・・・・・・・」
その瞬間、ミホークの顔色が変わった。
ゾロは命を懸ける覚悟でいる。
己と仲間の夢のために強くなることを決意した男が、ここで死ぬことも厭わないというのか?
「くだらん。おれに一太刀も浴びせられない男の命・・・取るに足らないとはまさにこのことだ」
「ミホークにゃ、そうかもしれねェが・・・おれは引けねェんだよ」
随分と血を失ったようだが、まだ正気は保っていられる。
『鬼徹』も左手でちゃんと握ることができるし、あとは・・・気合いで立つしかなさそうだ。
ゾロはなんとか右足一本で立ち上がると、大きく深呼吸を一つした。
「おれは、クレイオの命を預かっている」
ミホーク、お前と同じ目をした女。
「あいつは剣士としても、人間としても半端だ」
剣は人を殺す道具としか考えていない。
母が望んだ生き方をしたいと願っているくせに、それと真逆の道しか歩めないでいる。
「あいつはずっと、お前を支えに生きてきたんだと思う。自分の中に巣食う“鬼”を分かち合えるのは、お前しかいないと」
「・・・・・・・・・・・・」
「だが、お前はクレイオを拒絶した。その上、あいつの唯一の拠り所だった母親への愛情も否定した」
もしミホークがクレイオの母を愛していたと言ったなら、自分と同じ人間がこの世界にいるということに彼女は安堵することができただろう。
「支えと拠り所の両方をいっぺんに失った今・・・“半端者”のあいつが何を考えるか、手に取るように分かる」
きっと剣を手にし、ミホークに斬りつけるだろう。
母親を殺した原因となった男、そして自分を“殺してくれる”男を。