第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
もうかれこれ1時間は荷造りをしているのに、まったくはかどらない。
それよりも、怒りと悲しみを抑え込むのに必死だった。
部屋の隅に立てかけてある、愛刀『菊幻』。
それを握ったら最後、“誰か”を殺さずにはいられなくなりそうだ。
ミホークを?
違う・・・
悪魔として生まれながら、それを受け入れることもできず、ただ無様に己を呪っているだけの、
「この私を殺すまで・・・」
きっとミホークを斬りつければ、返り討ちに遭うだろう。
もしくは、“誰かを殺そうとしている”クレイオの刀がミホークに届く前に、ゾロがクレイオを斬り捨てるだろう。
そうしたら・・・死ねる───
クレイオがゆっくりと『菊幻』に歩み寄り、柄に触れようとしたその瞬間。
「クレイオ!! 開けろ!!」
ドアを激しく叩く音と、慌てたペローナの声が部屋中に響いた。
「ぺ、ペローナ・・・?」
いつもと様子が違うペローナに、嫌な胸騒ぎがした。
しかし、食堂でのこともあるし、今は誰とも顔を合わせたくない。
「ペローナ、今は忙しいから後にして」
「それどころじゃねェんだよ!! ちくしょう、鍵なんかかけやがって! 開けろ、クレイオ!!」
「今は一人にして欲しいの! だから───」
“放っておいて”、そう叫ぼうとしたクレイオの両目が驚きで広がる。
「ふざけンな!! てめェ、この私を締め出そうったってそうはいかねェぞ」
怒りのせいか、通常の5倍以上の大きさの姿になってドアをすり抜けてきたゴーストプリンセス。
だが、その顔は今にも泣き出しそうだった。
「早くしねェとッ!! ミ、ミホークがッ・・・ミホークがゾ、ゾロを殺しちまう!!」
ミホークが、ゾロを殺す・・・?
「あのバカ、ミホークに真剣勝負を挑んでッ・・・!! 敵いっこねェのにっ」
おそらく、二人の勝負を途中まで見守っていたのだろう。
ペローナの表情を見れば、状況が最悪だということは火を見るより明らかだった。
「ゾロ・・・!!」
自分が行った所でどうにもならないかもしれない。
だけど・・・
「ペローナ、二人の所に案内して!!」
あの二人の前に自分は無力だと分かっていても、立ち上がらずにはいられなかった。