第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
“さぁ、これが貴方のロザリオです。一緒に唱えましょう”
祈りの言葉を唱える母の横顔は、子どもながらにとても綺麗だと思った。
聖母様のお姿を見ることができたなら、きっと母のような方だろうと。
“人を赦すことこそが愛なのですよ”
あれほど愛に溢れた人だったのに、母を愛してくれた人はほとんどいなかった。
その一人だった神父様は母を裏切り、魔女であると宣言した。
そして・・・
その一人だと信じたかったミホークは、母を見殺しにした。
「お母さん・・・」
手の中のロザリオがジャラリと音を立てる。
夜空を思わせる群青色の石ラピスラズリと、透明で可憐なピンク色の石ローズクォーツが交互に連なる数珠。
その先には両手を広げる聖母の御姿が彫られた銀製の小さなメダルと、細身の十字架が付いている。
“本来は首にかけるものではありませんが、幼い貴方はこうしておかないと失くしてしまう”
最後に会った時にしてもらったように首にかければ、母の形見の重みのせいか、泣き崩れてしまいそうになる。
そうだ・・・私はただ・・・・・・
「母に報われて欲しかったんだ・・・」
人を愛することに徹しながらも、悪魔と交わったために魔女の烙印を押されてしまった。
その悪魔は母に手を差し伸べることをせず、二人の間にできた子すら拒絶している。
母は・・・母の人生とはいったいなんだったのだろう・・・
ただ赦し、愛したその見返りが死ならば、その行為に何の意味も価値も見いだせない。
人を赦すことも愛することもできないならば、いっそこのまま海賊になってしまおうか。
シャンクスにお願いしたら叶えてもらえるかもしれない。
“人を殺す覚悟が決められねェなら、人を殺さねェ覚悟を決めてみたらどうだ?”
ゾロ・・・
貴方はどうしてそんなに真っ直ぐなの。
自分の夢からも、欲望からも、決して逃げることがない。
夢のために人を殺すことを厭わず、欲望のために女を犯すことも厭わない。
そしてその後始末とケジメは必ずつけると言う。
“愛してる”
そう言われたところで、私は貴方に何も見返りを差し出すことができない。
今はただ・・・苦しいだけだ。