第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
大時計の秒針の音が響く。
それだけの沈黙の中、ミホークはクレイオを見つめていた。
髪、瞳、鼻、口、輪郭、肌。
その一つ一つに視線を這わせ、そして忌々しそうに顔をしかめる。
「それほど知りたくば、教えてやろう」
地獄の業火の中で人を殺していた少女は、こんなにも立派な女性に育った。
だが、彼女を育てたのはミホークではない。
「あの日、お前の母親が火刑になる前から、おれはあの島にいた」
クレイオの母が火あぶりになったのは深夜。
ミホークはその数時間前にクレイオの故郷に到着していた。
「だが、おれはお前の母親を助けなかった」
クレイオの眼前に蘇るのは、炎の中から現れた悪魔の姿。
彼に慌てる様子はなく、悠然と歩いていた。
あの場に現れたのはただ・・・母の死を確かめるため・・・?
「お前の母親を愛していたかどうか、それは───」
孤島に住んでいた、美しい修道女。
なんと愚かな女だったことか。
「見殺しにしたことが、その答えだ」
悪魔の心を聞いた瞬間、クレイオの両目から涙が零れた。
ミホークは母のことを愛してなどいなかった。
だけど・・・
事実を知ったことに後悔はない。
「・・・・・・ありがとう、ミホーク」
私はやっぱり、お母さんから全てを奪っただけだった。
神に仕える道も、命さえも。
憎しみのあるところに、愛をもたらす人になりなさい。
絶望のあるところに、希望をもたらす人になりなさい。
闇のあるところに、光をもたらす人になりなさい。
どうすれば・・・そんな人間になれるの・・・?
悪魔から生まれた私が・・・
「荷造りを・・・してくる」
それ以上、食堂にいることができなかった。
なによりミホークの顔を見ていることができなかった。
クレイオが逃げるようにして出ていくと、重い沈黙の中、ゾロがミホークに目を向けた。
そして、初めて口を開く。
「おい、ミホーク」
それは頂点捕食者に対して牙を剥こうとしている獣のごとく。
「───おれと勝負しろ」
懸賞金1億2000万ベリーの“海賊狩り”は、王下七武海に向かって覚悟を秘めた瞳を向けていた。