第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
コチ・・・コチ・・・
大時計の秒針の音が、やけにゆっくりと聞こえる。
1秒がまるで永遠のようだ。
ただならぬ空気のゾロに、クレイオとペローナは首を傾げた。
「ミホークが帰ってきたのか?」
ペローナは平然としているし、クレイオもいつも通りだから、この殺気は気のせいか・・・?
いや、ゾロは確かに背筋に冷たい汗が垂れるのを感じている。
「・・・ああ・・・もう玄関のところまで来てる」
旅先で何かあったのだろうか。
それとも・・・
緊張からか異様なほど喉の渇きを覚え、ゾロはグラスに半分ほど残っていた酒を一気に飲み干した。
だが、チリリと焼けるような感覚だけで、味も、潤いも感じない。
久しぶりに感じるミホークの気配に、おれはビビってるのか・・・?
「・・・・・・・・・」
「ゾロ、お酒をつごうか?」
クレイオが酒瓶を取ろうと椅子を引いた時だった。
キィーッと食堂のドアが開く音。
即座に、冷たい風が三人の足元に舞い込んでくる。
秋の夜風はここまで冷たいものだっただろうか。
彼が出掛けた時は確かに蒸し暑さすら感じていたのに、今はゾクリとするほど凍っている。
これは・・・
紛れもない、恐怖───
「ミホーク!!」
嬉しさからか、それとも驚きからか、ペローナがガタンと立ち上がりながら主を迎えた。
わざわざ確認するまでもなく、暗闇を背にしながら入ってきたのは、航海から戻ってきたばかりのミホーク。
海からそのままここに来たのだろう。
潮の香りを漂わせていたが、僅かながらそこに血の匂いも混じっていた。
「ミホーク、お帰りなさい」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオが声をかけると、ミホークは黙ったまま羽付き帽子を取り、食卓の上座の椅子に座る。
彼が不愛想なのは今に始まったことではない。
クレイオは気にする様子もなく、ミホークのためにコーヒーを淹れに席を立った。