第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
季節の移り変わりは常に静かに訪れ、それと気づく時は少しばかりの驚きと切なさを覚えるものだ。
シッケアール王国にも確かに秋は訪れ、一年を通して変わることのない針葉樹がどこか寂しげな色に染まっていた。
「それにしてもミホークはいったいどこに行っちまったんだろうな」
ミホークが島を留守にしてから1カ月以上。
ペローナが夕食のデザートに出されたアップルパイを頬張りながら呟いた。
「あの野郎・・・連絡も寄越さずにどこをほっつき歩いているんだ」
「あれ? ペローナ、ミホークがいなくて寂しいの?」
「そ、そんなわけねェだろ!!」
顔を真っ赤にしてフォークを振り回すペローナに、クレイオはクスクスと笑いながら紅茶を差し出す。
「私は寂しいな・・・今ならミホークとちゃんと話ができるような気がする」
窓の向こうは相変わらず、月明かりすら届かない暗闇。
この島に来たばかりのころは、暗くて冷たい古城を好んで住んでいる主の気持ちを知るのが怖かった。
きっと彼の心も同じように怨念が渦巻いているのではないか、と。
でも、ミホークは自分がそばにいることを拒みはしなかった。
娘として認めてくれているのかどうかは分からないけれど、初日にシャンクスと一緒に追い返すことも可能だったのに、それをしなかった。
そんな彼の心を知りたい。
母親を愛してくれていたのかどうか、を。
そう願い続けながらも聞くまでの勇気を持てずにいたけれど、今なら───
「クレイオ、何か変わったな」
早くミホークに会いたい。
そう思っていると、ペローナがフフンと笑いながらクレイオの顔を覗き込んできた。
「私が変わった?」
「ああ。前に、貧血でぶっ倒れた時のお前とは違う気がするぞ」
どこか吹っ切れたような顔をしているクレイオが、ペローナには嬉しかった。
“お前がここに来てから、このつまらねェ城も悪くねェかなと思ってたところだ”
クレイオもゾロも、ペローナにとっては“友達”と呼べる存在。
幼い頃に海賊に拾われ、スリラーバーグという特殊な環境で育った彼女には、友達がどういうもので、どうやって作るものかもわからないが、クレイオに言ったあの言葉は本心だ。