第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
二人が快楽に耽っている頃。
近くの海域では、一隻の小型船が静かにクライガナ島へ向かって進んでいた。
一人乗り用の船「棺船」。
青白いロウソクの火が、霧の中で怪しげな光を放っている。
ここは海王類が群れを成す海だというのに、彼らがひっそりと鳴りを潜めているのは、船に乗る剣士の殺気のせい。
彼を喰おうと牙を剥けば、一刀のもとに両断される。
海王類達は海面から何十メートルも下の所で、気づかれないようにひっそりと息を殺していた。
イカダほどの小さな船の甲板に取り付けられた椅子に座るのは、銃兵帽子を被り、黒い十字架のような剣を背負った男。
「・・・・・・・・・・・・」
彼は静かに進行方向を見据えていた。
その瞳は残酷な鷹のように冷たく、死神のように感情を表に出さない。
灰色の霧の向こうに、ボンヤリと輪郭が浮かび上がってくる島。
約一カ月半ぶりだろうか。
そこには我が城があるのに、男は長旅の終わりを喜ぶどころか、忌々しそうに目を尖らせていた。
そして、そのただならぬ男の覇気は、遠く離れたゾロ達にさえ届かんばかりだった。