第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「嫉妬は、何かを自分のものにできねェ時にするものだからな」
腹が減ったら食い物。
喉が渇いたら水。
そうやって体内に入れて満たした欲求が、自分の命に変わるのなら。
お前へのこの欲望も、おれの一部になるんだ。
「過去も現在も未来も全てひっくるめて、お前はおれのもんだ。だから、嫉妬はしねェな」
煩悩はそれぞれ、過去世、現在世、未来世に三十六種類ずつあるという。
だから、百八つ。
煩悩を受け入れるということは、三世全てを受け入れるということ。
「ただ気持ち良くなりてェだけなら、自分の手で十分。それか筋トレしてりゃ、じきに性欲は治まる」
自慰や筋トレではどうしようもないほどの“飢え”。
これを満たすにはどうすればいいか、本能が知っている。
「けど、お前を前にすると、何をしても治まらねェのが分かる。気持ち良くなくたっていい」
それによって得られるものが苦痛でも、憎しみでもいい。
「お前がおれのものになりゃ、それだけで満たされるモンがある」
それを色欲と呼ぶのか、征服欲と呼ぶのかは分からない。
だが、こうやってクレイオが自分のために身体を開いていることに得られる高揚と満足感を・・・幸福と人は呼ぶのかもしれない。
「ゾロ、私はその逆よ」
私は貴方を前にすると、空っぽになってしまいそうになる。
私の過去も、現在も、未来も、全て奪われる。
そして“無”になった私に、新しい過去と現在と未来を注ぎ込んでくれる。
そんな錯覚に囚われる。
「おれが怖いか?」
満たされる貴方と、虚になる私。
でも、不思議ね・・・
「全然怖くない」
私はそれを歓迎している。
そうやって結ばれる男女もいるのか。
それなら・・・
ミホークと母はどうだったのだろう。
ミホークもやはり、母から全てを奪っていったのだろうか。
でも、誰かにここまで求められて初めて分かる。
「ゾロ・・・来て」
その人を受け入れたいと、心から思った瞬間・・・
過去も、現在も、未来も失くしてもいいとさえ思えることを。