第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
見上げる空はどこまでも曇っていて、太陽がどこにあるのか分からない。
それでも眩しいと思うのは、ゾロの髪の瑞々しい緑色のせいだろうか。
ゾロはクレイオの手から刀を取ると、それを空にかざすようにして見つめた。
「・・・いい刀じゃねェか」
ゾロの手にはまったく馴染まない『菊幻』。
「名刀はそれぞれ“意志”を持っている。刀が持ち主を選ぶんだ」
名だたる剣豪達が手にしたというだけで悲運の死を遂げた、妖刀『鬼徹』。
数奇な運命をたどって剣豪リューマから託された、黒刀『秋水』。
世界一の剣豪になるという約束を交わした亡き親友の形見、愛刀『和道一文字』。
この三本の刀がゾロを主として認めたように、『菊幻』はクレイオにのみ“応え”ようとしている。
「お前はこいつに選ばれたんだ。神のお告げを聞いて国の危機を救ったっていう女とやらの次の主人として」
処刑された少女から離れ、どのような経緯でシャンクスの手に渡ったかは分からない。
でもこの刀は知っていたんだ。
シャンクスに拾われれば必ず、最後はクレイオにたどり着くと。
そして名だたる剣士なら誰しも、刀が求める主は誰かを見抜くことができる。
だから赤髪もクレイオにこの刀を渡したのだろう。
「この刀が望まねェ使い方だけはしてやるなよ」
そう言って、ゾロはクレイオの手に『菊幻』を返した。
すると刀は自らの意志で戻ろうとしたかのように、力なく地面に置かれたクレイオの手に収まる。
「望まない使い方・・・」
ゾロを見上げ、言葉を噛み締めるように口を開く。
「分かる・・・それは、人を殺すこと・・・・・・」
誰かを守ろうという時、『菊幻』の刃はいつもよりも軽く、切れ味も鋭くなる。
だけど、我を忘れてただ人を傷つける時の“彼女”は、まるでなまくら刀のように重く、鈍くなる。
「私みたいな人間が使っても・・・いいのかな・・・」
ほんの少し手合わせしただけで、ゾロは見抜いてしまった。
クレイオが力を欲した、本当の理由。
母の願った赦しの心など微塵もなく、犯罪者を殺すための力を求めていたということを。