第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「おれはたった一瞬で何百人も殺した女を知っている」
炭鉱事故の二次災害から島を守るために、鉱山の中に取り残されていた大勢の人間の命を奪う決断を下した女。
だが島の人間からは恨まれ、彼女は娼婦としてしか生きていくことができなくなった。
「そいつは許されようとは思っていなかった。考えていたのは、ただ一つ」
どうやって大切な命を守るか。
“・・・私は島の人から恨まれて当然・・・償いようがないもの”
島の怒りを一身に受け、身体中に傷を作っていた娼婦。
そんな彼女を、ゾロは一晩中抱きしめることしかできなかった。
「悪魔でいいじゃねェか、クレイオ」
それがお前の本質なら、受け入れるしかねェだろ。
大事なのは、その“本質”の扱い方なんじゃねェのか?
「お前が悪魔だろうが、聖人だろうが、どっちでもいい」
ゾロはクレイオを強く抱きしめ、黒髪に顔を埋めた。
「おれは“お前”を抱きてェと思う」
お前は快楽で人を殺すような女じゃない。
7歳の時も、3年前も、お前は母親とレイプされた女の子の名誉を守るために命を奪った
そうしなければ、さらに多くの犠牲者が生まれていただろうし、お前自身も殺されていたかもしれない。
生きるための犯罪
大事なものを守るための犯罪
それでも犯せば、悪魔と呼ばれるなら───
上等じゃねェか。
「どのみちおれも海賊だ・・・お前と一緒に地獄へ堕ちてやる」
その瞬間、クレイオの身体から力が抜けていった。
ゾロを倒すことしか考えていなかった“鷹の目”から、怒りの色が消えていく。
「ゾ・・・ロ・・・」
地上の淵から地獄へ突き落されるかのごとく、後ろに倒れていくクレイオ。
それをゾロの手が支える。
後頭部が地面に叩きつけられないよう優しく抱きすくめながら、海賊狩りは微笑んだ。
「お前の負けだ、クレイオ」
“どちらかの背中が地面に着いたら勝負あり”
ゾロの腕の中で、クレイオは仰向けに倒れていた。