第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「ほう・・・」
ゾロは剣を構えたクレイオを見て笑みを浮かべた。
「それがシャンクスの剣術か?」
両手で持ち、つばの辺りで利き手である右手の親指を立てている。
おそらく、刃の向きをコントロールしやすくするためだろう。
半身を引いて、つま先に重心を置く立ち方は自分と異なる。
シャンクスの剣術に、ミホークの血筋。
普段は女性に刀を向けることはしないゾロだったが、異様なほどの高揚感を覚えていた。
三本の刀を鞘から抜き、『和道一文字』を口に咥える。
「手加減をしようなんて考えるなよ。おれも一切手を抜かねェ」
剣を持って城から戻ってきたクレイオは、顔つきからして違っていた。
久しぶりに持つ『菊幻』に興奮しているのか、それともこれからゾロと一戦交えることに興奮しているのか。
頬を上気させ、“鷹の目”を光らせる彼女は、いつもよりも美しく見えた。
「どちらかの背中が地面に着いたら勝負あり。いいな?」
「分かったわ」
クレイオの剣の実力は知らないが、この気持ちは親友のくいなと勝負していた時以来か。
絶対に負けたくないという思いに混じった、相手に対する尊敬と憧れ。
ゾロは小さく笑うと、一歩足を引いて重心を低く取る。
周りにはいつの間にかギャラリーとばかりに、ヒューマンドリルが集まってきていた。
「来い」
手加減なしの真剣勝負。
ゾロが何故、そのようなことを言い出したかは不明だ。
クレイオは剣を頭の横で構えると、剣先をゾロの顔に向けた。
刺突か、もしくはそこから流動的に斬撃を与えるつもりなのだろう。
防御がしやすく、力が逃げにくい構え方だな。
ゾロの顔から笑みが消えた瞬間、クレイオが立っていたはずの場所で土埃が舞った。
───速い・・・!
そう思った時には、『菊幻』の剣先を『秋水』の腹で受けていた。
「・・・!」
迷いのない突きに、刀を持つ手に僅かな痺れが走る。
思った以上に力が強い。
というより、自分の力を刀に伝わらせるのが上手いのだろう。
腕力に頼るだけの剣術とは違う。
さすが・・・隻腕の剣士シャンクスの弟子といったところか。