第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「だからね、ゾロ・・・私は自分が情けない」
「・・・・・・・・・・・・」
目の前に建つ巨大十字架は、静かにゾロとクレイオを見下ろしている。
「もっと強くならなきゃと思うのに・・・どうすればいいのか分からない」
シャンクスはきっと、教えられることは教えてくれたはず。
ここから先は自分で答えを見つけなければならない。
だから、このシッケアール王国に来た。
「私はミホークの気持ちを知りたい・・・お母さんを愛していたのか」
ミホークに愛された結果として、私が生まれたのならお母さんは幸せだっただろう。
でも、そうでなかったら・・・?
「ミホークがもし、ただの欲求の捌け口としてお母さんを犯し・・・望まれぬ子どもが生まれたのなら・・・」
その結果、修道女として生きる道を諦め、魔女として殺されることになったのなら・・・
「私は本当に・・・ただの悪魔でしかない」
衝動的な欲望が生み出すのは、悲劇しかないんだ。
「・・・・・・・・・・・・」
二人の間に沈黙と冷たい風が流れる。
ふと、森の奥から獣の唸り声が聞こえた。
その声に反応したのか、ゾロはそれまでクレイオを抱きしめていた腕を解く。
「・・・話はだいたい分かった」
そしてゆっくりと立ち上がり、ミホークが作ったと思われる神の象徴を見上げた。
彼はこの巨大十字架をどのような想いで彫ったのだろう。
紛争で命を落とした犠牲者の鎮魂のため?
それとも、十字架を背負って死んでいった“誰か”のため?
「おい、クレイオ」
ゾロはいまだ地面に座って項垂れる悪魔の子を見下ろした。
「お前の剣を持ってこい」
シッケアールの暗い空を背にしながら、血管の浮き出た手を差し出す。
「───おれと手合わせをしろ」
緑髪を持つ男の猛獣のような瞳。
それを見上げるは、黒髪を持つ女の鷹のような瞳。
二つの視線が交差した瞬間、辺りの空気に亀裂が入るような緊張感が走った。